『ホテルローヤル』で直木賞受賞後、小説家として脂ノリノリな印象のある桜木紫乃。
新しい作品が出れば気になるし、読んでいない過去作品も追いかけているのだけど、今回の作品は正直言ってイマイチだった。
比較的、当たり率の高い作家さんと言う印象があるのだけれど、何でもかんでも面白いと言う訳ではないらしい。
無垢の領域
道東釧路で図書館長を務める林原を 頼りに、25歳の妹純香が移住してきた。生活能力に欠ける彼女は、書道 の天才だった。
野心的な書道家秋津 は、養護教諭の妻玲子に家計と母の介護を依存していた。
彼は純香の才能に惚れ込み、書道教室の助手に雇う。その縁で林原と玲子の関係が深まり……
無垢な存在が男と女の欲望と嫉妬を炙り出し、驚きの結末へと向かう。濃密な長編心理サスペンス。
アマゾンより引用
感想
ジャンルとしては一応「ミステリ」として売り出しているらしい。しかし言っちゃあなんだがミステリ要素はほとんどない。
「作中で人が死んだらミステリ」と言う程度でミステリを名乗っても良いのであれば、この作品もミステリに入ると思うのだけど、出版社はもう少し売り方を考えて戴きたい。
この作品がミステリとか…いくらなんでも雑過ぎる。
毎度おなじみ物語の舞台は北海道。主人公は書道家としては鳴かず飛ばずで書道界では目が出ていない書道家の中年男性。
認知症を患ったの介護をしながら、高校で養護教諭として働いている妻のヒモ的な存在として、子ども相手の書道教室を開い暮らしている。
そこに現れたのが知的障害を持った書道の天才少女。この2人を中心に物語が進んでいくのかな…と思いきや、呆れるほど沢山の視点が入り込んでくる。
まずは主人公。知的障害を持つ書道の天才少女。主人公の妻。主人公の母。天才少女の兄・母・祖母。妻の母親と義妹。妻の高校の生徒…などなど。
登場人物が多いのは構わないのだけど、出てくる人達にそれぞれ意味とエピソードを突っ込んできたのは失敗だったと思う。
全員が主人公。だけど、全員が薄っぺらいのだ。
特に主人公と知的障害を持つ書道の天才少女については、書き方によってはもって深い内容になりそうなものなのに「とりあえず知的障害の人を出してみました」程度に留まっていて、設定を全く生かしきれていない。
主人公の妻に関わる物語も「で。結局、その話って必要だったの?」としか思えなかった。
エピソードとしては悪くないけれど、大筋の物語を薄っぺらくしてまで書きたかった事なのかと問い詰めたい。
天才少女の兄についても同様。ただ、主人公と天才少女が書道とか変わっていくに至った経緯は必要だったかな…と思うので、彼らに書を教えた人達(母・祖母等)については書き込んでいくのは仕方がないかな…とは思う。
1つ1つのエピソードは面白いのだけど、やっつけ感が半端ない。
大量のアイデアとエピソードを突っ込んでいるだけど、1つの作品としての完成度が低く、とっ散らかってしまっているように思う。
「桜木紫乃にハズレ無しだと思っていたけど、そう言う訳でも無かったんだ!」とある意味感動を覚えた。
そう言えば『風葬』も書道教室が舞台の物語だったけれど、作者は書道教室に何か特別な思い入れがあるのだろうか? 余談だけど『風葬』もイマイチ面白くなかった。
今回は残念だったけれど、これか出てくるだろう新しい作品に期待したい。