北海道のあるラブホテルを巡る物語。7編からなる連作短編形式。
舞台が舞台なだけに好き嫌いは別れると思うけれど、恋愛とかドロドロした性描写は意外と少なめ。それよりもむしろ泥臭くて、やり切れない感じ。
ホテルローヤル
北国の湿原を背にするラブホテル。生活に諦念や倦怠を感じる男と女は“非日常”を求めてその扉を開く―。
恋人から投稿ヌード写真の撮影に誘われた女性事務員。貧乏寺の維持のために檀家たちと肌を重ねる住職の妻。アダルト玩具会社の社員とホテル経営者の娘。
ささやかな昴揚の後、彼らは安らぎと寂しさを手に、部屋を出て行く。人生の一瞬の煌めきを鮮やかに描く全7編。
アマゾンより引用
感想
桜木紫乃は薄汚れた人間を描くのが抜群に上手い。読んでいると軽く憂鬱になるレベル。
キラキラした感じとか、穏やかな空気とか、そういう物がまったく無い。据えた匂いのする現実をドヤ顔で押し付けてくる。
桜木紫乃の作風は最近では珍しい部類だと思うし、女性作家さんに至っては特異な存在だと思う。
こんな不愉快な作品をわざわざ読むのはどうかなぁ……と自分でも思うのだけど、薄汚れた人間を描きながらも、その視線は優しい。
だから放り出すことなく読めるのだと思う。負け犬だったり、ダメ人間だったり、社会から弾き出された人達を慈しむ視線が感じられるので、読後感はそれほど悪くならないのだ。
この作品には「自分とは違うけれど身近にいそうな人」がたくさん登場する。
もしかしたら自分の知り合いに似たような人がいたような気がする……と錯覚してしまうほど。
あまりパッっとしない人間が主人公になっているからこそ、心に添ってくるのだと思う。
そんなに気持ちの良い作品ではないので、人にオススメし難いけれど、面白く読めた作品だった。
桜木紫乃は『ホテル・ローヤル』で第149回直木賞受賞作。個人的には『ラブレス』の時に取らせてあげたかったなぁ。