数ある三浦綾子の作品の中でも5本の指に入るほど好きな作品。
久しぶりに再読してみた。三浦綾子と言えは『氷点』『塩狩峠』『道ありき』あたりが代表作と言われるけれど、それらの作品はキリスト教的考えが前に出過ぎている気がする。
それが三浦綾子の持ち味なので否定するつもりはないけれど、この作品は三浦綾子にしてはキリスト教ティストが抑え気味なのがとても良い。
岩に立つ
お袋の貧乏と苦労を見て育ちましたでしょう。女郎さんたちは叩き売られた可哀そうな女たちだ。とても遊ぶ気にはなれませんでしたよ。
……一本気で、無法者にも膝を屈しない。信念と信仰にささえられた腕で建てる家は、誰もが褒める。
人間らしく生きる1人の棟梁、その逞しい半生を、感動をこめてつづる長編。
アマゾンより引用
感想
主人公は北海道で暮らす大工の棟梁。独白スタイルで構成されていて、山本有三の『無事の人』と似た印象を受ける。
「竹を割ったような性格」と言うのは大工の定番なのかも知れないけれど、この作品の主人公も『無事の人』の主人公も、性格がなんとなく似通っていて、両方とも読んだ人なら「あれ?」と思う部分があるかと思う。
もしかしたら三浦綾子は山本有三から影響を受けたのかな……と思わなくもないけれど、作品の筋書きは全くといいほど違っている。
この作品は他の三浦綾子作品とは大きく違っていて、読んでいて壮快な感じがするのが良い。
主人公は竹を割ったような性格の男。しかも真面目で一本気。途中、クリスチャンになるのだけれど「神とはなんぞや」「罪とはなんぞや」と思い悩むタイプではない。
自分の与えられた場所で精一杯生きていく様は応援したくなるし、読んでいてとても清々しいのだ。
子ども時代の描写は、小学校教師をしていた三浦綾子ならではの上手さが光るし、青年期以降は主人公が一人前の人間として成長していく過程が見事に描かれている。
主人公の恋愛話もけっこう好きだ。
三浦綾子の描く恋愛って、不倫が多いし、身体の関係こそなくてもパートナーを裏切っていたりするゆうな「そりゃ、ないわ」と言うような展開が多いのだけど、この主人公は誠実なのがとても好みだ。
主人公は互いの事情から好きあっていた人と一緒になれず最終的に好きだった人とは別の人と結婚するのだけど、心から妻を愛していくところが素晴らしいと思った。
「恋」ではなく「愛」とか「情」の領域だと思う。実際、一般の人達の恋愛や結婚って、そんなものだと思う。初恋の人と大恋愛の末に結ばれて……なんて夫婦は珍しいのではなかろうか。
私の中でこの作品は『泥流地帯』『続泥流地帯』と同じグループにいる。
このグループの作品を読むと「辛いこと、大変なことがあっても、誠実に頑張って生きていこう」と思えるのだ。派手さはないけれど素晴らしい作品だと思う。