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雪のアルバム 三浦綾子 小学館

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学生時代、それこそ文庫本の背表紙が擦り切れるくらい読んだ1冊。

ヒロインが洗礼を受けるため、牧師にあてた「信仰告白」と言う形を取った1人語り形式で、絵の上手なヒロインの幼少時代から洗礼する23歳までの半生が描かれている。

ヒロインは私生児として生まれ、女手ひとつで育てられる。母親は性的にだらしない女性でヒロインは母親を嫌いながら女性として成長していく。

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雪のアルバム

北海道・旭川。浜野清美は母子家庭に育った。

いじめにあい、大人への不信も募るなか、友達の事故死を目撃したのを黙っていたことや、母の愛人から弄ばれたことなどから清美は暗く無口な子となってゆく。

だが、出生の秘密とともに知った信仰心篤い叔母の自分に対する深い愛情や、一人の少年との出会いにより、いつしか心の中に明るい光がともってゆく。

……不遇な少女が、信仰に目覚め、23歳で洗礼を受けるまでの心の軌跡を綴る。

アマゾンより引用

感想

当時、私も母親が嫌いでヒロインの気持ちになって作品を読んでいた。

この作品に限らず小説の世界では母娘の確執を描いた作品は案外多い。そして作者は大抵女性作家だ。

「同性の親との確執」と言うのは人が生きていく中で大きな壁なのだと思う。

親子関係といっても、人それぞれに違っているので、ひとことでは語り尽くせないけれど「似ていない親子」または「方向性の違う親子」って、本質的な部分ではどこまで行っても分かり合えないと思う。

分かり合えないからこそ「どんな風に歩み寄っていくか」が大切だし、妥協点を見つけるまでが大変なのだと思う。

ヒロインは様々な経験をしていくなかで「母は愚かな人ではあったけれど、可愛らしい女性である」と言う事を知る。

「好きな男の子供をあたわったんだから、もうかったようなもん」と母が自分を愛していてくれる事を理解することで初めて母と寄り添う事が出来るのだけど、そこまでに至る道のりが丁寧に描かれているのが、この作品の魅力だと思う。

もちろん、三浦綾子なのでキリスト教的な話も突っ込んであるし「罪とはなんぞや」的な部分も描かれているけれど、そこはご愛嬌。

ちなみに。ラストはハッピーエンドで締めくくられている。

学生時代は「幸せになって良かったねぇ」と思ったものだけど、オバサンになって読んでみると「ああ。とりあえず妥協点は見つかったけれど、ヒロインはまだまだ苦労するよね」としか思えないのがちょっと切ない。

人間の本質って、そう簡単には変わらない。

自分を変える事は出来ても、人を変えることなんて出来ない訳で、ヒロインの母はこれから先もきっと同じ過ちを繰り返していくのだと思うし、そのたびにヒロインは頭を悩ませる事になると思う。

作品に「その後」は描かれていないので私の勝手な想像でしかないのだけれど。

書かれた時代が時代なのと三浦綾子の作風もが相まって下品な印象は受けないのだけど、筋書きだけ追ってみると、桐野夏生あたりがドロドロと描写してくれそうな内容で、改めて読んで三浦綾子の物語作りの巧みさを再認識した。

三浦綾子は「キリスト教作家」と言う印象が強いけれど、本質的には優れたストーリーテラーなのだと思う。

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