中山可穂の宝塚シリーズ。『男役』『娘役』に続く3作目は『銀橋』。
銀橋とは 宝塚歌劇で舞台前面のオーケストラボックスと1
出演者と観客が最も近くなる特別な場所で宝塚独特のシステム。感覚としては歌舞伎の花道と近い気がする。
銀橋
宝塚という花園の酸いも甘いも知り抜いた専科のアモーレさんのダンディズムに憧れ、音楽学校に入学したえり子。
分担さんだった先輩、花瀬レオ(レオン)が組替えで同じ宙組となり、落下傘でついにトップスターに就任。
銀橋をまたいで舞台と客席はひとつの宇宙となり、各人各様の人生ドラマを秘めながら、ついにレオンお披露目公演の幕が開く!『男役』『娘役』に続く、愛と青春の宝塚シリーズ第三弾!!
アマゾンより引用
感想
もしかしたら宝塚シリーズから中山可穂が好きになった人は中山可穂の事を「宝塚作家」だと思うかも知れないけれど、かつて中山可穂は女性同士の恋愛ばかりを書いていた小説家だ。
賛否はあると思うけれど、胸が痛くなるようなぶっ飛んだ作品を「これでもか、これでもか!」とばかりに世の中に送り出してきた。
しかし。今の中山可穂は宝塚作家でしかない。
残念ながらすっかり尖った牙が抜け落ちていて、宝塚三部作も数を重ねるごとに中山可穂の個性が削ぎ落とされている。
まぁ…アレですよ。もはや宝塚ファンブックですよ。
宝塚同人誌と言っても過言ではありません。実在の人物こそ出てきていないけれど、ヲタク業界で言うところの「オリジナル」ってヤツ。
流石にプロの作家だけあってクオリティは間違いないものの、宝塚と多少なりとも関わりのある人でないと読んでも面白くないと思う。
巻末で中山可穂自身が「1作目、2作目を読んでもらった方がより楽しめるけれど、この作品だけでも楽しめますよ」的な事を書いていたけれど、中山可穂はいつからそんな傲慢な作家になってしまったんだろうか?
この作品。明らかにファンに向けられたもので単品では楽しめないと思う。
普通に読むには登場人物が多過ぎるし、宝塚のお流儀を知らない人には専門用語だけでウンザリするだろう。
『銀橋』ではアニメ業界でプリキュアがシリーズ毎に人数を増やしていったり『アイカツ!』や『ラブライブ』で主要メンバーを一新させつつ、新シリーズにも旧シリーズのキャラを突っ込んでくるのと同じ手法が使われている。
あくまでも「ファンありき」の商売で基本的には一見さんお断り。突っ込んでくるなら「1作目からおさらいして来いや!」って感じだ。
中山可穂は2度と胸が引きちぎられるような切ない恋愛小説は書いてくれないのだろうなぁ。
散々っぱら文句を書いているけれど、私自身は宝塚は大好だし、宝塚独特のお流儀は理解している。
だけど「それはそれ。これはこれ」。中山可穂の宝塚三部作は宝塚ファンブック以上のものではない。
本でも漫画でもなんでもそうなのだけど、作家と呼ばれる人達で「この人凄い」と思う人には、凄いと思った時に、しっかり応援しなければならないのだな…とシミジミ思った。
どんなに素晴らしい作品を書く作家さんにも「ピーク」と呼ばれる時期は必ず訪れる。極稀に年を重ねても旺盛に素晴らしい作品を書き続ける人もいるけれど、そんな人はめずらしい。
中山可穂のピーク時は「新刊が出たら必ず買わせて戴きます」と言う気持ちでいたけれど、今はまったく買う気がしない。この作品も図書館で借りて読んだし買う予定もない。
中山可穂のピークは過ぎたのだって事は頭のどこかで分かっているのに「最後に1度で良いから昔のような恋愛小説を書いて欲しい」と言う気持ちが捨てきれないでいる。