前作の『男役』に続く宝塚小説第2弾。
今回は『娘役』。宝塚の娘役さんがヒロイン。そして、その娘役に片思いするヤクザの男の物語。
中山可穂らしいドロドロの恋愛…ではなくて、あくまでも宝塚歌劇団を描いた作品で、ヤクザのパートは宝塚話に付随している感じ。
娘役
宝塚の娘役と、ひそかに彼女を見守り続ける宝塚ファンのヤクザの組長。決して交わるはずのない二人の人生が一瞬、静かに交差する――。
宝塚歌劇団雪組の若手娘役・野火ほたるは新人公演でヒロインに抜擢され、一期上の憧れの先輩・薔薇木涼とコンビを組むことになる。
ほたるの娘役としての成長とバラキとのコンビ愛。そんな彼女をひそかに遠くから見守り続ける孤独なヤクザ・片桐との、それぞれの十年をドラマティックに描く。
アマゾンより引用
感想
今にはじまった事ではないが、中山可穂の描く男性はあくまでも女性を引き立てる為のオマケだと思う。
今回は格好良く描かれていたものの、ヤクザパートはテンプレ通りで特に面白くはない。
その分、女性の描き方は実に素晴らしい。可憐、可愛い、健気、いじらしい…と、どんな言葉で表現したものかと悩んでしまうほど魅力的に描かれている。
ヒロインだけでなく、ヒロインを取り巻く男役の女性達も「そら、惚れるわ」としか思えないような格好良さ。
しかし格好良いと同時に、脆い部分も併せ持っているとろが、中山可穂流なのだと思う。
いやぁ…少女漫画を読んでいる時のようなトキメキを感じてしまった。ただ、中山可穂のファンからすると「コレジャナイ感」が否めないのも事実だ。なんだか、小さくまとまっちゃってる印象。
実在の劇団がモデルになっているのだから、なかなか書き難い部分もあるとは思うのだけど、最後まで読んでも、前作の『男役』で感じたカタルシスを感じる事は出来なった。
正直、宝塚歌劇団を舞台にしたお仕事と言う意味だけで言うなら、宮津大蔵の『ヅカメン! お父ちゃんたちの宝塚』の方が面白いと思う。
恋愛と悲劇を抜いた中山可穂の小説は、スパイスの効いていないインドカレーのようだ。
ネタバレになるといけないので詳しくは書かないけれど、この作品にも一応、悲劇的な要素は含まれている。
しかしも悲劇的なパートは片思いのヤクザが引き受けているせいか、吃驚するほどアッサリしているのだ。
私は今でも中山可穂が好きだし新刊が出れば間違いなく読むとは思うのだけど、今回は激しく物足りなさを感じた。
それなりにドキドキもしたし、それこそ一気読みしてしまったけれど、何度も手にとって読み直したいかと言われると…と言う感じ。とりあえず次の作品に期待したい。