中山可穂は「レズビアン作家」と称される本年度の山本周五郎賞を受賞した実力作家でもある。
中山可穂の作品は、かなりの数の作品を読んできたが、どれも骨太で「作者の思い入れ」がギッシリ詰まっているような気がして、それゆえに「出来のほどはイマイチ」だったりする作品でも何故か嫌いになれない作家さんだ。
サグラダ・ファミリア
将来を嘱望されながら、ある事件をきっかけに落ちぶれてしまったピアニスト響子。
酒に溺れながら孤独に生きる彼女のもとに、かつて恋人だった透子が戻ってきた。ある日突然、赤ん坊を抱いて。
しかし、女同士のカップルと赤ん坊の不思議な関係は、突然の透子の死によって壊れてしまう。
希望を失いかけた響子の前に一人の青年が現れた――。切ない愛と新しい家族のかたちを描く、恋愛小説の傑作。
アマゾンより引用
感想
『サグラダ・ファミリア』の女主人公はレズビアンのピアニスト。愛に不器用で、ピアニストとしても躓いていた彼女は精神的に、相当まいっている最悪の時に最愛の恋人(女性)を事故で亡くしてしまう。
女主人公と……
恋人が残していった2歳児の男の子と……
その子の父親を愛していたゲイの男性と……
まったく血の繋がらない人間が家族として暮らしはじめる。
「血」ではなく「情」という危うい絆ではじまる家族。愛に不器用な人間が、不器用ながらも人を愛し、そして家族を築いていく……そんな物語だった。
やや感傷的で、理想主義的なストーリーだったけれど、まるで、やみくもに刃物を振り回すような刹那的で激情に身を任せるような愛し方しかできなかった女主人公が、それまで知らなかった「人の愛し方」を知り人間として、さらなる高みへと昇っていく姿に私は崇高なものを感じた。
中山可穂は「レズビアン」を題材にした作品ばかりを書いているので「レズビアンものは食傷したから他の物が読みたい」……との声も、ちらほら聞くが私はむしろ、彼女が求めるスタイルを、題材を一途に追いつづけて欲しいと思っている。
木原敏江の名作漫画『摩利と新吾』に出てきた一節を思い出してしまった。
……どんなに馬鹿みたいに思えることでも
最後までつらぬき通せば本物になるのですよ……
私も「最後までつらぬき通す馬鹿」になりたい。
どんな些細な事であっても「つらぬき通す」のは大変だ。つらぬき通すのに必要なのは、意志。情熱。努力。真摯さ……色々は条件はあるだろうけれど「強さ」だけは絶対必要だと思う。
強い女。強い人間になりたい。そんな事を考えさせられた1冊だった。