刑務所を出所した男のその後を描いた『身分帳』があまりにも良かったので「他に刑務所から出所した人をテーマにした小説は無いのかな?」と探したところ『いつか陽のあたる場所で』も出所した人のその後を描いた作品だと知って読んでみた。
『身分帳』の主人公は男性で時代設定は少し古めだけど『いつか陽のあたる場所で』の主人公は女性。スマホとSNS全盛の「いま」に較べると少し前の時代設定だけど、リアルに近い現代設定。
『身分帳』と『いつか陽のあたる場所で』は男女差以前に、主人公が育ってきた生活環境が違い過ぎるとは言うものの、主人公には共通点がある気がした。
いつか陽のあたる場所で
- 7年間の服役を終えた小森谷芭子は自分の過去を隠し整骨院でアルバイトとして働いていた。
- 芭子は出所後、刑務所で知りあった江口綾香(41歳)と再開し、少しずつではあるものの社会に溶け込もうとしていた。
- 下町の谷中で新しい人生を歩み始めた2人の元受刑者をめぐる連作短編形式の人情譚。
感想
『いつか陽のあたる場所で』は刑務所を出所した人のその後の人生を描いた作品ではあるけれど、佐木隆三の『身分帳』とは随分と方向性が違っていて『身分帳』に較べると陰鬱な感じや重さはなくて、気楽に読み進めることができる。
連作短編形式なので1つ1つのエピソードは1話で完結しているし、基本的には人情話なので読んだ後に不愉快なることはないと思う。主人公が女性で心を許せる友達がいる…って設定はご都合主義的ではあるものの、物語の救いになっていた。
『いつか陽のあたる場所で』と『身分帳』は主人公の性別も犯してしまった犯罪の質も違うものの、なんとなく主人公には共通点がある。どちらの主人公も決して根っからの悪人…って訳ではないのだけれど、行動が短絡的と言うか頭が悪いと言うか常識がないと言うか、とにかく読んでいて「どうして、そうなっちゃうの?」とヤキモキさせられるのだ。
だけど、この「ヤキモキさせられる感じ」っては犯罪者をリアルに映し出したからなのかも知れない。『ケーキの切れない非行少年たち』でも非行少年たちは知的障害スレスレの人が多い…みたいな事が書いてあった。そう言う意味では『いつか陽のあたる場所で』にしても『身分帳』にしても考えさせれる作品だと思う。
それはそれとして。私は『いつか陽のあたる場所で』を読んでちょっと泣いてしまったし「私も頑張ろう」と勇気付けられたエピソードがあった。ネタバレを避けたいので物語の内容は書かないけれど「楽しそうに生きている人も案外そうじゃなかったりする。生きるのは大変だけど、それでも頑張っていこうじゃないか」みたいな話だった。
私は今、リアルタイムで仕事の事で悩んでいたり辛いことがあったりするのだけれど『いつか陽のあたる場所で』のラストエピソードを読んで「私も頑張ろう」と素直に思えた。この感覚こそ小説を読む醍醐味だと思う。
『いつか陽のあたる場所で』は万人にオススメしたいような名作…って訳ではないけれど、少なくとも私の心には刺さったし「頑張って働こう」言う気持ちにさせられた作品だった。