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愛するいのち、いらないいのち 冨士本由紀 光文社

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つい先日「『タイガー理髪店心中』は今年読んだ本でブッチギリレベルで面白かった」って書いたところなのに、またまたブッチギリでレベルで面白い作品に出会ってしまった。

作者の冨士本由紀は私にとって初めて読む作家さん。特に予備知識もなく、図書館の新刊コーナーに並んでいたので手に取った…ってだけの話。

59歳の主人公が認知症の父親の介護と夫の闘病に向き合う物語で妙にリアル感があった。

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愛するいのち、いらないいのち

ザックリとこんな内容
  • 主人公は元クリエイターで現在無職の夫と倹しく暮らす59歳の正社員。
  • 無職の夫を養いつつ、遠い実家で独居する認知症の父の介護に行き来する。
  • 認知症の父…と言っても自分と血は繋がっておらず母親の再婚相手。
  • そんな中、夫に癌が見つかる。

感想

様々な介護小説が発表されているけれど『愛するいのち、いらないいのち』のヒロインが直面した介護はなかかなのハードモードだった。

まずヒロインの年齢が59歳だってこと。老老介護とはいかないまでも、老人に片足を突っ込んでいる状態。そして認知症の父親とは血が繋がっておらず、折り合いも悪かった。

さらに言うなら夫は無職。しかも夫とは認知症の父親から結婚を反対されていたのが原因で、長らく内縁関係を続けいたのだけど、夫が無職になり自分の扶養家族に入れたいがために、ようやく籍を入れた…って設定。

そもそも「血縁関係を持たない父親の世話をする必要があるのか?」って話なのだけど、血縁関係は養子縁組を解消することが出来るらしく、物語の途中で「養子縁組を解消したい」みたいな流れもあったりする。

……だけど、ヒロインは何だかんだ言いながらも義理の父親の世話をし続けるのだ。

そしてヒロインの夫がまた酷い。ヒロインは夫を愛しているし、夫もヒロインを大事に思っていて「良い夫婦」だと言えるのだけど「優男金と力はなかりけり」の典型のようなヒモ的な存在。

読んでいる最中に「ああっ。もう!どうして損クジ引いちゃうかな?」とヤキモキしてしまうのだけど、この作品のヒロインのような女性ってそこここに沢山いる気がする。

話のあらすじだけ聞いてしまうと「なんだか不幸で可愛そうな話だな」って思ってしまうかも知れないけれど、このヒロイン。意外と強い。

認知症の父親に悪態をついてみたりもするし「もう、どうでもいいや」みたいな気持ちになって、夫とデートして発散したりもする。不幸になり過ぎない絶妙なバランスで物語を進んでいくので、そこまで絶望的な気持ちにならずに読みすすめることが出来る。

『愛するいのち、いらないいのち』の素敵なところは、認知症の老人を「何だかんだ言って愛らしい存在」みたいな感じにしなかったことにあると思う。介護小説って、認知症の老人を綺麗に描写し過ぎちゃう作家さんが多いのだけど、読んでいて本気で腹が立ってくるくらい憎たらしい感じに描かれていた。

また、夫が無職・無年金だったり、自分自身は真面目に働く正社員でだけど生活はギリギリだったりするあたり、現代の日本を上手く取り入れていると思った。

介護小説と言っても「家族」ではなく、夫と2人暮らしを続けていた人が主人公になるパターンってちょっとめずらいな…と思ったのだけど、少子高齢化で子どもを産む人が減っているのだから、こういう形の介護小説が当時するのは必然だったと思う。

今回はネタバレを避けたいのでラストに至る流れは書かないけれど、最後まで面白く読むことが出来たし、読み終えて満足した。

今年読んだ本の中で1、2を争うほど面白かったのだけど「あえて」文句を付けるなら「題名の付け方はどうにかならなかったのか?」ってこと。

『愛するいのち、いらないいのち』って題名を見て「介護小説だな」ってピンとくる人は少ないと思う。人工中絶の話とか、出生前診断の話かと思う人の方が多いのではなかろうか? 題名を付けるセンスが無さ過ぎる…編集者はアドバイスしなかったのかな?

だけど本当に面白かったし、色々な人に読んで欲しいと思ったし、とりあえず冨士本由紀の外の作品を読んでみたいと思った。

今年はコロナの影響で図書館に行けなかった期間が長くて、本を沢山読めていないけれど、ここへ来て心熱くなる本との出会いがあってことを感謝したい。

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