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タイガー理髪店心中 小暮夕紀子 朝日新聞出版

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『タイガー理髪店心中』は今年読んだ本でブッチギリレベルで面白かった。今年はまだ終わっていないけど、私にとって今年ナンバーワンの作品になるかも知れない。

評判やあらすじ等を全く知らない状態で借りてきて読んだ作品。

作者の小暮有紀子は1960年生まれで『タイガー理髪店心中』がデビュー作。還暦を迎える世代の人が書いた作品とはとても思えないくらいに力強い作品だった。

ちなみに『タイガー理髪店心中』は第四回林芙美子文学賞を受賞している。

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タイガー理髪店心中

ザックリとこんな内容
  • 表題作『タイガー理髪店心中』と『残暑のゆくえ』を収録。
  • 『タイガー理髪店心中』はデビュー作であり、林芙美子文学賞受賞作。
  • 理髪店を営む穏やかな80歳を過ぎた高齢夫婦の穏やかな日常風景からはじまる『タイガー理髪店心中』は最初のイメージとは違う方向に転がっていく。
  • 『残暑のゆくえ』は食堂を営む高齢夫婦(日出代は75歳。須賀夫99歳)の物語。夫婦と共に満州帰り。満州で経験した「ある事」が物語のラストで明かされる。

感想

『タイガー理髪店心中』は題名から「理髪店の経営者が心中する恋愛物語なのかな?」と思って読みはじめたのだけど、主人公が高齢者だったので「なるほど…老老介護の末に妻(もしくは夫)を殺害する物語なんだな」と予想。

……そして予想は見事にハズレた。

物語の導入部は理髪店を営む高齢夫婦の様子が丁寧に描かれている。

頑固で昔気質なご主人と夫の事が大好きで働き者の妻。その姿は微笑ましくて「こんな夫婦になりたいなぁ」と思ったりした。

夫婦はかつて一人息子がいたのだけれど、不幸な事故で一人息子を亡くしている。妻は認知症の症状が出てきていて「子どもの泣く声が聞こえる」と夫に訴える。

物語は淡々と進んでいくのだけど、話が進むにつれ「微笑ましい高齢夫婦の物語」ではなくなっていくのだ。最初は小さな違和感を感じるだけ…そして少しずつ全容が明かされていく。

……凄く怖い。怖いし、なんだか気持ちが悪い。

話の流れを紹介したくて仕方がないのだけれど、これから『タイガー理髪店心中』を読むかも知れない人には「柴犬だと思って育てていた捨て犬が実は狐でした」くらいの驚きを味わって戴きたいので中盤以降の流れは書かないでおく。

併録されている『残暑のゆくえ』も面白かった。こちらも『タイガー理髪店心中』と同じスタイルで、最初のうちは暢気に読むことが出来るのだけど、物語を読み進めていくうちに「実は……」とばかりに話が一変する。

『タイガー理髪店心中』も『残暑のゆくえ』もどちらも怖い。

そしてその怖さはホラー的な怖さではなくて「人間の悪意」に繋がっていく怖さって感じ。人間は怖い。それでもどっこい生きていくのが人間なんだな…ってことを感じさせられた。

これは凄い作家さんが出てきてしまったものだなぁ。小暮有紀子の次の作品に期待したいし、全力で推したいと思った。

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