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おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子 河出書房新社

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『おらおらでひとりいぐも』は若竹千佐子の文藝賞受賞作にしてデビュー作。

なんと作者の若竹千佐子はこの時63歳。文藝賞史上最年長での受賞とのこと。

私は個人的に文学新人賞は若い人に出して欲しいと思っている。

出版不況の今、文章で食べていくのは難しいと聞く。作家として活躍してくれそうな人には出来だけ早く箔をつけてあげて欲しいと言う気持ちが強くて、63歳での受賞と聞いて「ちょっと勘弁してよ~」と言う気持ちになってしまった。

「63歳で受賞してあと何作書いてくれるの?」とか「年金もうすぐなんだしさ」とか。しかし実際に読んでみると「これを応募されたら賞を出すしかないよね…」と言わざるを得なくなった。

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おらおらでひとりいぐも

ザックリとこんな内容
  • 主人公は74歳の桃子さん。
  • 東北弁で書かれている部分が多い。
  • 24歳の秋、桃子さんは東京五輪の年に故郷を離れ、身ひとつで上京。住みこみで働き、結婚、出産。15年前に夫に先立たれた。
  • 1人暮らしの老女の生活と心の動きを鮮やかに表現した作品。
  • タイトルは宮沢賢治の詩「永訣の朝」の一節から。

感想

私はこんな小説を今まで1度も読んだことがない。今までになかったタイプの作品だと思う。

日本では日本語で書かれた小説が沢山出版されているけれど、沢山あるがゆえに似たような作品が多い。

実際私も本の感想を書く時に「この作風は○○っぽい」とか「○○の劣化版って感じ」みたいな表現をする事がある。

物語もそうだけど、雰囲気もテーマもかぶるなかでしのぎを削るっている感じ。しかし、この作品は今までなかったタイプだと思う。「他の何にも似ていない創作物」って、それだけで賞賛するに値する。

さて。肝心の内容だけど74歳の1人暮らしの主人公の日常と思い出、そして妄想が描かれている。

主人公は東京オリンピックの年に上京して結婚。子どもを2人育てあげ、夫を亡くした平凡な老人だ。かつて、こんな主人公、こんなテーマで書かれた小説があっただろうか?

「おばあちゃん大活躍」とかそう言うタイプの話ならあったけれど、平凡な老人の心情を丁寧に描き、なおかつ文学として成立させている。

『おらおらでひとりいぐも』は若竹千佐子でなければ書けなかっただろうし、賞を取ったのも納得出来る。

好き嫌いはあるだろうけど、中年以降の女性に是非読んでもらいたい。

私はまだ主人公の年齢には達していないけれど、それでも共感する部分が多かった。時に自分と重ねてみたり、義母や実母の人生を思ったりもした。

東北弁で書かれた部分が読み難かったり、単調過ぎてダレる部分があったりと荒いところもあるけれど、読み難いところを我慢して読む価値はあると思う。

面白かったのだけど作者は次回作を書いてくれるのだろうか?

小説家ってデビューしても一発屋で終わってしまう人は少なくない。しかも63歳と言う年齢を思うと、ちょっと心配。

「お願いだから、せめてもう1作読ませて~」と言う気持ちで一杯だ。

そして次があるなら是非とも主人公にもう少し普通っぽい老人を据えて欲しい。この作品の主人公は基本には普通の老人なのだけど「四十六億年のノート」なんて物を持ち歩いてたりして、ところどころ意識高い系な感じが鼻についた。

「普通っぽく見えるけど本質的にはインテリなんです」な感じはいらないので、もっともっと年を重ねた女の心にグイグイと踏み込んで欲しかった。

私の好みとは少しズレるので大好きとまでは言えないけれど力作なのは間違いない。次回作を期待している。

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白い木蓮の花の下で
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