本を読むにもその作品によってしっくりとくる季節があって、佐々木丸美の作品は断然冬に読むものだと思う。
作者はすでに故人なので新しい作品は望めないけれど、北海道出身の作家さんで雪と少女とロマンティックを書かせたら彼女の右に出る人はいないと思う。
中学生から高校生頃に激ハマりして、それこそ溺れるに読んだのだけど、ふと思い出して再読してみた。
花嫁人形
父と母、そして四人の姉妹。幸福な家庭の中で、血の繋がらない昭菜だけは教育も与えられず、孤独に育った。
叔父の壮嗣は陰で時々優しくしてくれるが、皆の前では末娘の織ばかりを可愛がる。
孤児という境遇と許されぬ恋に苦しむ昭菜は、ある事件をきっかけに、新たな秘密と罪を背負うことになる。
血縁と企業が絡んだ宿命に翻弄される人々を描く、『雪の断章』『忘れな草』姉妹編。
アマゾンより引用
この作品はデビュー作『雪の断章』から続く孤児シリーズの中の1冊。
「みなしご」なんて言い回しが死語になっている今、こんな設定の作品を書く人なんていなくなってしまったけれど「みなしご」と言う響きには不思議と浪漫があるように思う。
タイガーマスクもみなしごハッチも「孤児」ではなくて「みなしご」なのだ。
今も昔も親との縁に恵まれない子どもはいると思うのだけど、昨今そういう主人公は滅多とお目に掛かれない。
佐々木丸美のヒロイン達は揃いも揃って薄幸の美少女ばかりなのだけど、この作品のヒロイン昭菜ほど不幸な子はいなかったと思う。
何しろ昭菜は教育を受ける機会を与えられず、計算も出来ず文字さえ読めずに成長する。
「昔は学校に行けない子もいたよね」なんて時代ではなく、昭和設定だから驚かされる。ここで「無いわぁ~」と引いてはいけない。
この辺の設定は佐々木丸美の作品を楽しむために支払う税金だと思って受け入れて戴きたい、
さて。設定はロマンティックだけれど話の本筋はあくまでもミステリだ。
佐々木丸美が多くのファンを獲得したのはミステリにロマンティックを持ち込んだところにあると思う。
殺人も起これば陰謀だの企業を絡めたお家騒動なんかも扱っていて、さらに言うなら沢山の作品はそれぞれ1冊ずつでも楽しむ事が出来るけれど、いくつかの作品は少しずつリンクしていて作品を読めば読むほど「おおっ! あれはそう言うことだったのか」と納得出来るようになっている。
その辺を詳しく書くとせっかくの謎が台無しになってしまうので、気になる方は是非読んで戴きたい。
一時期、絶版続きで作品を読むのが難しくなっていたけれど、ここ数年は文庫化されているので大抵の作品は手に入ると思う。
そして佐々木丸美の真骨頂は何と言っても流麗な日本語である。この作品の中に登場する文章を少しご紹介したい。
もの言わぬ路傍の石、あれは人々の罪を撃つための弾丸だろうか。いや、愛と怒りを動かす私の人生の力点。
よじれた恋の火矢は天地の法を破るかのように叔父と姪の絆に飛んでゆく。
もう一事が万事この調子だから驚かされる。
少女小説ではなくミステリなのに。もっとも、最近の少女小説でここまで流麗な文章をぶつけてくる人を私は知らないのだけど。
今回は10年以上ぶりに再読したのだけれど、やっぱり私は佐々木丸美の作品が大好きだと改めて思った。
ロマンティックな作品を読みたい女性に是非ともオススメたい。