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ミシンと金魚 永井みみ 集英社

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『ミシンと金魚』は第45回すばる文学賞受賞作で「芥川賞候補になるのでは?」と話題になっていた作品。

『ミシンと金魚』は結局、芥川賞候補にもならずTwitter界隈で「どうして候補にならなかったのか?」騒がれていたので、未読の作家さん…ってこともあったし「何がダメだったのか?」ってところが気になって読んでみた。

結論から先に書くけど、正直私は好きじゃなかったし「悪くはないけど、芥川賞は無理なのでは?」って思ってしまった。

今回は軽くネタバレ込な上に好意的な感想ではないので『ミシンと金魚』が好きな方はスルー推奨です。

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ミシンと金魚

ザックリとこんな内容
  • 主人公はデイサービスを利用している認知症のカケイ。
  • カケイは「みっちゃん」たち(介護ヘルパーのことをそう呼んでいる)から介護を受けて暮らしてきた。
  • ある時、カケイは病院の帰りに「今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」と、みっちゃんの一人から尋ねられ自分の過去を振り返っていく。
  • カケイの母はカケイを産んですぐに死に、お女郎だった継母から毎日毎日薪で殴られ育った。
  • 結婚するが、息子の健一郎が生まれてすぐに亭主は蒸発。カケイと息子の健一郎、亭主の連れ子だったみのるは置き去りにされてしまう。
  • やがて、生活のために必死にミシンを踏み続けるカケイの腹が、だんだん膨らんで……

感想

『ミシンと金魚』は超高齢化社会進む日本ではこれからも高齢者が主人公の作品が増えていくのだろうなぁ…と予感させてくれる作品ではあった。ただし若竹千佐子の『おらおらでひとりいぐも』だの、朝倉かすみの『にぎやかな落日』に較べると数段落ちる気がした。

『ミシンと金魚』の主人公カケイはエキセントリックな人生を送っているので、パッと読んだ印象では派手な感じなのだけど「貧乏な家に生まれて頭が悪い人が進むありがちな人生」って感じで、読んでいて気持ちの良いものではなかった。

私自身が福祉業界で働いているので「あ~。分かります。そういう事例って、よくありますよね」くらいにしか思えなかったのが敗因なのかも知れない。

主人公のカケイは認知症とか、不幸な境遇云々以前に「貧困から抜け出せない健常者と知的障害者の境界線にいる人」なのだと思う。

これは『ケーキの切れない非行少年たち』のテーマでもあったけれど、犯罪者だったり「底辺」と言われる生活をしている人は不幸な境遇から抜け出すことが出来ない…ってことが起こりがちだ。

作者の永井みみはケースワーカーとして働いてきた…ってことなので、分かっていてこんな作品を書いたと思うのだけど、正直言ってそこに認知症まで重ねてくるのはどうなんだろうなぁ。

認知症と底辺生活を送らざるを得なかった女の一生…と言う、重いテーマを2つも重ねてしまったことで、どちらの描写も中途半端になっている気がした。達者な作家さんなら2つのテーマを重ねても描き切れたかも知れないけれど『ミシンと金魚』では、どちらも薄っぺらなものでしかない。

……とは言うものの『ミシンと金魚』が話題になった理由も分からなくもない。

  • 幼少時の虐待。
  • 望まぬ結婚。
  • 夫に捨てられ夫の連れ子を育てる。
  • 男の快楽の玩具にされる。
  • 不本意な妊娠。
  • 無知ゆえに我が子を亡くす。

……盛り過ぎではあると言うものの、こんな人生は読んでいて普通に衝撃的だものなぁ。ルポルタージュ作品ならアリだけど不幸なエピソードを「全部のせ」しただけ…って文学として、どうなんだろうか。

話題になった作品ではあるけれど、私はちっとも楽しめなかったし良い作品とも思えない1冊だった。

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