『かもめ食堂』は2006年に公開された群ようこの小説が原作の日本映画。映画公開時は大ヒットしたし、そもそも原作小説も群ようこの出世作になっている。
アマゾンプライムで公開されていて夫が「そう言えば、この作品観たことないや」と言うので「邦画の有名作だし観ておくのも良いんじゃない?」ってことで視聴することに。
実は私。『かもめ食堂』は原作も映画も大嫌いだった。
……とは言うものの、当時の私と今の私では生活環境がガラッと変わっているので「もしかしたら面白いと思うかも知れない」と思って視聴してみた。
今回は軽くネタバレ要素が含まれのでネタバレNGの方はご遠慮ください。
かもめ食堂
かもめ食堂 | |
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監督 | 荻上直子 |
脚本 | 荻上直子 |
原作 | 群ようこ |
出演者 | 小林聡美、片桐はいり もたいまさこ・ヤルッコ・ニエミ マルック・ペルトラ |
音楽 | 近藤達郎 |
主題歌 | 井上陽水「クレイジーラブ」 |
公開 | 2006年3月11日 2006年9月29日 |
あらすじ
日本人の女性サチエはフィンランドの首都ヘルシンキに「かもめ食堂」という日本食の食堂を開店する。だが近所の人々からは「小さい人のおかしな店」と敬遠され、客は全く来なかった。
ある日、サチエは食堂にやってきた日本かぶれの青年トンミ・ヒルトネンから『ガッチャマンの歌』の歌詞を質問されたが、思い出すことができずに悶々としていた時に町の書店で背の高い日本人女性ミドリを見かける。
サチエはミドリに「ガッチャマンの歌詞を教えて下さい」と話しかけると、ミドリはその場で全歌詞を書き上げた。
「旅をしようと世界地図の前で目をつぶり、指した所がフィンランドだった」というミドリに縁を感じたサチエは、彼女を家に招いた。そしてミドリは食堂で働くことになる。
ミドリは食堂を繁盛させようと、メインメニューであるおにぎりの具にトナカイ、ニシン、ザリガニといったフィンランドで定番とされる食材を採用するなどといった様々なアイデアを出すが、サチエは「おにぎりは梅、シャケ、おかか」であるというポリシーを譲ろうとはしなかった。
だが、ある日思い立ってフィンランドの定番食であるシナモンロールを焼くと、いつも遠巻きに見ていた主婦たちがその匂いに釣られて来店し、その日を境に少しずつ客が入るようになる。
そんなある日、マサコという日本人旅行者がかもめ食堂を訪れる。
マサコは介護していた両親が亡くなった後、ある時ふと目にしたテレビでフィンランドのエアギター選手権を知り、おおらかな国民性に惹かれてフィンランドまでやって来たのだった。
空港で荷物を紛失して足止めを受けていたマサコは、荷物が見つかるまでの間、観光をしながらかもめ食堂へ来店し、いつしか食堂を手伝うようになる。
食堂はサチエ、ミドリ、マサコの3人体制となる。そして…
北欧ブームとシナモンロール
思えば。マリメッコとか北欧ブームのハシリは『かもめ食堂』だったように思う。
日本人はムーミン大好きだし、中学・高校では「北欧は社会福祉が進んでいる国です」と教科書で習うので、日本人はなんとなく北欧には良いイメージを持っている人が多い気がする。
そんなベースがあっての『かもめ食堂』である。しかもパッとしない独身女3人の共同生活。オシャレなカフェは素敵な町並み。
女性好きのする海外のオシャレ映画と言えば『アメリ』なんかもそうなのだけど『アメリ』のヒロインは若くて可愛い女の子だったければ『かもめ食堂』はそうじゃないところが強い。強過ぎると言っても良い。そりゃあ流行る。流行らない理由がない。
もう日本人女性は北欧にかぶれまくったし、シナモンロール食べまくったよね。
私は北欧かぶれには乗り切れなかったけれど、それでもシナモンロールは食べまくった。コーヒーとシナモンロールは合う…ってことは『かもめ食堂』を知らなければ一生知らなかったと思う。
それまでレーズン嫌いだった私は『かもめ食堂』のおかげシナモンロールを知り「レーズンも調理法次第でアリだな」と思えるようになった。
だけど公開当時、私は『かもめ食堂』が大嫌いだった。
リアリティと金銭感覚
『かもめ食堂』公開当時、私がどうしてもハマれなかったのには理由がある。『かもめ食堂』は素晴らしい雰囲気映画ではあるけれど金銭感覚とリアリティが無さ過ぎた。
当時の私は独身だったけれど、実家がたいへん貧乏でお金に困っていたのでサチエをはじめ、3人の女達のふんわりした生活に「フザケンナ!」くらいの気持ちしか持てなかったのだ。
私は思った。「サチエは株かなんかやってて、ごっそり資産を隠し持ってるの?」とか「それとも裏でヤバい商売すしてるとか、身体売ってるとか?」って。
発想が下衆くて嫌になるけど、お金のことばかり考えている人間に『かもめ食堂』を楽しむなんて土台無理な話だったのだ。
雰囲気映画として楽しむ
『かもめ食堂』はリアリティを追求するタイプの作品ではない。
- 知らない外国でのオシャレな生活
- 素敵なカフェ
- 美味しいコーヒーとシナモンロール
- 心地よい女友達との生活
……素直な気持ちで楽しめば良いのだと思う。公開当時『かもめ食堂』が大嫌いだった私だけれど、結婚して生活が変わった今は「まぁ…この世界観もありだな」と思えるようになった。
環境によって人間は変わる。私は時を経て『かもめ食堂』を許容できる人間になっていた。
変わらない感覚もある
『かもめ食堂』の公開当時、1度観ただけでは分からない場面があったのだけど、改めて視聴したことで発見があった。
映画公開当時、私はこの場面の意味が分からなかったのだけど、改めて見てピンときた。
マサコはカバンの中身をすり替えられたんだ! あのキノコはドラッグ。『ミッドサマー』の夏至祭でもドラッグキメてたし、やはり北欧はドラッグ天国。マサコはフィンランド人にハメられて日本に帰れなくなったに違いない。
この考えに行きついた時は軽く興奮したよね。「映画は時を経て見直すことで発見があるなぁ」って。
自分の考察が間違っていないことを確認したてググッてみたところ、あのキノコの唐突な演出は荻上直子監督にはありがちな手法で「キノコは暗喩と言うか一種のファンタジーである」ってところが正解らしい。
「あのキノコはドラッグだ!」と確信した私は心の汚れた人間だってことが分かった。
映画って素晴らしいなぁ。時を経て感想が変わることもあるけれど、人の本質は変わらないってことを教えてくれるのだから。
『かもめ食堂』は美しい心を持った人に観て戴きたい美しくて素敵な作品だと思う。