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銀河鉄道の父 門井慶喜 講談社

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宮沢賢治の父親の視点から宮沢賢治と彼の父親を描いた作品。

伝記ではなくあくまでも小説なので作者自身の解釈がふんだんに盛り込まれているかと思うのだけど、宮沢賢治が好きな方には是非呼んでもらいたい1冊。

なかなか読み応えがあって面白かった。

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銀河鉄道の父

賢治の生家は祖父の代から富裕な質屋であり、長男である彼は本来なら家を継ぐ立場だが、賢治は学問の道を進み、後には教師や技師として地元に貢献しながら、創作に情熱を注ぎ続けた。

地元の名士であり、熱心な浄土真宗信者でもあった賢治の父・政次郎は、このユニークな息子をいかに育て上げたのか。

父の信念とは異なる信仰への目覚めや最愛の妹トシとの死別など、決して長くはないが紆余曲折に満ちた宮沢賢治の生涯を、父・政次郎の視点から描く、気鋭作家の意欲作。

アマゾンより引用

感想

宮沢賢治と言えば『銀河鉄道の夜』『セロ弾きのゴーシュ』のような童話とか『雨にも負けず』『春と修羅』のような詩を思い浮かべる方が多いと思う。私もその中の1人。

特に『銀河鉄道の夜』をはじめとするやるせない系の童話を愛していて宮沢賢治は素晴らしい作家だと思っている。

宮沢賢治が作家として素晴らしいけれど人として素晴らしいかどうか…となると、また別の話。

宮沢賢治の一生は映画化もされているのでご存知の方も多いと思うのだけど、言っちゃあなんだが色々な意味で駄目な人だ。

私は『銀河鉄道の夜』が大好き過ぎて宮沢賢治の事を調べまくった時期があるのだけれど当時は「知らなきゃ良かった」とガッカリした記憶がある。

ただ今は私も大人になったので宮沢賢治の駄目っぷりは芸術家を好きになる税金のようなもの…と許容している。作家、芸術家には人としてアウトな人が多いのだ。

宮沢賢治は大きな質屋の長男として生まれた。この作品の主人公はその父親。

主人公はは子どもの頃に勉強がよく出来たのだけど「質屋に学問はいらない」との親の方針から小学校を卒業してすぐ質屋の稼業を継ぐ。結婚し、賢治が生まれて父となった彼は自分の父親から「お前は父であり過ぎる」と言われるほど、賢治を愛する父となる。

ただし賢治の父は「子どもを愛する」と言っても、愛情表現は得意ではなくて父と息子の関係はイマイチ噛み合わない感じが続いていく。

この作品は宮沢賢治云々と言うよりも「子を持つ親の気持ち」が見事に描かれている。

特に印象的だったのが賢治が赤痢になって入院した時のエピソード。賢治は隔離病棟に入れられて家族も入ってはいけないと言われているにも関わらず、父はつきっきりで賢治の看病をする。しかも自分も腸カタルにかかってしまい、それ以降腸の弱さに悩まされることになる…というもの。

これを読んだだけでも、どれだけ子どもを愛した父親だったかお分かり戴けると思う、まさに「父であり過ぎる」のだ。

しかし天才の親と言うのは気の毒なもので、賢治とはずっと噛み合わないし、当の賢治は好き放題に生きる道楽息子(本人は至って真面目だけど)だし、主人公の報われなさったらない。

しかもあんなに愛した賢治は逆縁の不幸で早死してしまう始末。

結局、父を助けたのは子どもの頃はほとんど手をかけず「こいつ、バカじゃないの?」くらいに思っていた賢治の弟だった…と言う皮肉な展開。

しかし宮沢賢治の生み出した素晴らしい作品は父を筆頭とする賢治の家族のバックアップあってこそのものだと言うことがよく分かる。

全体を通しての印象はかなり地味だ。以前読んだ『屋根をかける人』も地味だったけれど、それに通じるものがある。

これは門井慶喜の持ち味なのだろうなぁ。

淡々とした感じは吉村昭っぽくもあるけれど、吉村昭が男臭いのに対し、作者の作風はなんとなく女性っぽい雰囲気がある。

私はけっこう気に入ったのだけど、どの作品も全体的にローテンションなので読む人を選ぶ気がする。

最初にも書いたけれど、宮沢賢治が好きな人には是非読んで戴きたい。そうでない人はちょっと退屈かも知れないな…と思う。

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