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夫の墓には入りません 垣谷美雨 中央公論新社

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垣谷美雨の書く小説はハズレ無しと言う印象があるけど、今回もお流石でございました。

安定の面白さだった。ある日夫が急死したと言う電話を受けるところから物語スタートする。

題名を見た瞬間「ははぁ~ん。これは最近流行りの『姻族関係終了届』がテーマの小説だな」と思ったのだけど、そんな単純な話ではなかった。

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夫の墓には入りません

ザックリとこんな話
  • 文庫化にあたって『嫁をやめる日』から改題。
  • 主人公は40代のパート主婦。子どもはおらず夫と2人暮らし。
  • ある晩、夫が急死。
  • これで嫁を卒業できると思いきや、舅姑や謎の女が思惑を抱えて次々押し寄せる。

実のところ結果的に主人公は『姻族関係終了届』を提出するのだけど「田舎で夫に死なれた子どものいない妻がどんんな扱いを受けるか」ってだけの話ではなくて、1人の女性の成長物語として仕上がっていた。

感想

主人公と亡夫はすれ違いの多い夫婦で夫の死後、様々な事が分かってくる。

夫の親との関係も微妙に変わり、主人公は「舅姑の介護要員として使われるのは嫌だ」と思うようになる。

それと同時に亡夫の女性問題、自分の仕事の話、新しい男性の出現と様々な出来事が次々と起こってくるのだけれど、綺麗にまとまっていて、とっ散らかった感はなくサクサク読み進める事が出来た。

この作品の素晴らしいところは「ああ…こんな人いるよね」と思ってしまうほど登場人物達がリアルだってところだと思う。

物語の筋としてはそこまで目を見張るようなものはないのだけれど、人間描写、人間関係が物凄くリアルに描けているのだ。

色々な場面で感心したのだけれど、中でも秀逸だったのは主人公の父親の言葉だ。3つほど紹介したいと思う。

「要はさ、夏葉子はつぶしてもい人間なんだよ」

「夏葉子は小さいときからしっかりしていた。花純みたいにわがままも言わなかった。大人しいが芯は強い。その上、相手の気持を優先するし誠実とくれば、誰だって頼りたくなる。夏葉子は信頼に足る人間だ」

「つまり夏葉子は、誰からみても庇護の対象じゃねえんだよ

これを読んで、心当たりのある人は泣いてもいいと思う。私と一緒に泣こう。

よくもまあ、こんな酷いセリフを思いついたものだと感心する。この類の人間をここれだけ短い言葉でズバリと表現するなんて。

私は夏葉子のように大人しく、相手の気持ちを優先するタイプではないけれど「つぶしてもいい人間」「誰だって頼りたくなる」「庇護の対象じゃねぇ」あたりは思い当たる節がある。

結婚して、夫から大事にしてもらっているので今は平気だけど、独身時代の私はまさに「つぶしてもいい人間」だった。

実のところ実家の母はいまだそう思っている節さえある。

この主人公は女性だけど私はこの作品を「女性の立場を描いた小説だ」とは言いたくない。つぶしてもいい人間ポジションの人って、女性に限ったことではなく男性だっていると思う。

この作品は題名もコレだし、出版社的にも「嫁として生きる女性に読んで欲しい」的な売り方をすると思うのだけど、個人的に日本中でひっそり頑張っているであろう「つぶしてもいい人間」の皆さんに読んで戴きたいと思う。

さて。なかなか面白い作品ではあるのだけれど、実のところ絶賛…とまではいかない。

個人的にはラストが気に食わなかった。

希望のあるハッピーエンドではあるものの、綺麗にまとまとり過ぎている気がしてイマイチ納得出来なかった。

「つぶしてもいい人間」なんて酷い描写があったというのに、そんな綺麗事で納めちゃっていいのかな…と。

無理矢理ハッピーエンドに持っていく必要はなかったように思うのだけど、ハッピーエンドが作者のポリシーだとしたら、それもまた仕方がないのかも知れない。

話の締めくくり方が少し残念ではあったものの、面白い1冊だと思った。

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