戌井昭人の本を読むのはこれで4冊目。なんだかんだ言って応援している。
「もう手放せません。最高です!」と言うほど好きな作品はないんだけど「なんかちょっと好き」って感じ。
物語云々より肌に合うと言うか、肩肘張らない感じが良いと言うか。今回も楽しませてもらえそうだな…と期待して手に取ったのだけど、面食らってしまった。
今までと作風が全然違う! こんな作品を書く人だったんだとビックリさせられた。
酔狂市街戦
芥川賞5回落選!作家による、血まみれダメ男ブルース。ドタバタ、ワヤクチャ、ろくでなし―賢くなんか生きらんないけど、それでも俺は生きてやる。おかかえ運転手に、売れない舞台役者、同じく甲斐性なしのサックス奏者…しぶとく這い回る底辺男の、諧謔と哀歓と正義。
アマゾンより引用
感想
今までの作品はなんだかんだ言って純文学路線だったのだけど、今回は完全に「演劇関係者ポジション」だと思う。
「演劇関係者ポジション」と言うのは私が勝手にそう言っているだで、井上ひさしとか、中島らもとか、つかこうへいとか、要するに演劇関係者かつ小説家を指しているのだけど。
今まで知らなかっただけで戌井昭人も演劇畑の人だったらしい。そう言えば前回読んだ『のろい男 俳優・亀岡拓次』は役者が主人公の話だったっけか。
正直『のろい男 俳優・亀岡拓次』を読んだ時は演劇関係者だとは思ってもいなかったのだけど。
今回は盛り合わせ的短編集。
不条理だったり理不尽だったりする話が多めなので好き嫌いは分かれそう。なんとなく中島らもの作風とかぶる。ハチャメチャだけど、何故か憎めなくて、ほのかに哀しい話が多かった。
つかこうへい、中島らも亡き今、戌井昭人は彼らの後を継いで演劇関係者ポジションに入っちゃうんだろうか?
今回の作風も嫌いじゃないけど、今までの飄々としてつかみどころのない感じも好きだったので、路線変更だとしたら少し寂しい気がする。
読者としては両立する方向でお願いしたい。
収録作品の中で私が気に入ったのは『青鬼』と『カナリア』。
『青鬼』は大人のファンタジーと言うかファンタジー・ホラーと言うか。話の筋よりも雰囲気を楽しむタイプの作品なのだけど、救われない感じは嫌いじゃない。
一方『カナリア』はトコトンやるせない系。これまでの作風に最も近い気がした。
戌井昭人は今後、どの路線で書いていくのだろう?
この作品は「すごく面白かった」とまでは思わなかったけれど、次の作品はどちらの路線でくるのか興味津々。
とにかく新作を追っていこうと思う。