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清く貧しく美しく 石田衣良 新潮社

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『清く貧しく美しく』は非正規雇用で働く同棲カップルの恋愛を描いた作品。作者の石田衣良はフリーターをしながら小説を書いていたとのことで、もしかしたら作者自身の実体験も反映されているのかな…と思ったりする。

恋愛小説としては素晴らしいのだけど、色々と考えさせられる作品だった。

今回、ネタバレを含む感想なのでネタバレNGの方はご遠慮ください。

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清く貧しく美しく

ザックリとこんな内容
  • ネット通販大手の倉庫で働く30歳非正規雇用の堅志と、スーパーでパートをする28歳のと日菜子の同棲カップルを描いた恋愛小説。
  • 就職氷河期の渦中にあった人達に焦点を当て「お金を使わずに生きる若者像」を描く。
  • 「おたがいをちゃんとほめあおう」と約束し、貧しいながらも心豊かに暮らしていたカップルに大きな転機が訪れて……

感想

堅志と日菜子のカップルは傍で眺めていて微笑ましいと言うか、羨ましくなるような理想的な恋人同士だった。

身近な幸せを大切にしながら、互いを思いやって生きる。

……これって簡単そうに思えて、実はなかなか難しい。

私自身、料理をするのが好きなので料理好きの日菜子の気持ちはよく分かるし、派手な贅沢をしなくても身近な幸せを感じて生きる恋人達には共感したし、2人を応援したくなってしまった。

物語の3分の1は清貧に生きる恋人達が描かれているのだけど、途中から話の方向が変わってくる。堅志は働いていた倉庫で正社員の声が掛かり、研修を受けるのだけど、これが「そんなのねぇだろ」レベルの下剋上。フリーターから一気にエリートコースへのチヤンス到来。一方、日菜子は跡継ぎがいなくて閉店するというイタリアンレストランで働くことになる。

そして堅志と日菜子に言い寄ってくる異性の登場。

……怒涛の展開に突入していくのだけど、下衆な展開にはならないので安心して戴きたい。多少ハラハラするものの2人は作品の題名そのままに『清く貧しく美しく』の姿勢を貫くし、なんだかんだ言いながら一途な気持ちを忘れないのだ。

……ただ、ちょっと賛同出来なかったのは堅志がせっかく掴みかけたエリートコースの道を断ってしまう流れ。

堅志は筆で身を立てていきたいと言う夢があり、友人から本の解説を依頼されたことをキッカケで、自分がやりたかったことへの道が開けてくる。ただそれはあくまでもフリーランスとしての働き方。筆1本で食べていくのは至難の業。

堅志は「貧しくたって平気だよ」と言うけれど、いくらなんでも無茶過ぎる。タイムリー過ぎる流れで恐縮だけど、コロナ禍でフリーランスの人達が悲鳴を上げているのはご存知のところ。

「好きなことをして生きていく」のは素晴らしいと思うのだけど、あくまでそれは「自分の口を養えることが前提だと思う。厳しいことを言うようだけど、下手すりゃ老後は生活保護コースだ。

また日菜子の姿勢も気に食わない。

堅志がエリートコースに乗っかったことを機に、昭和の女のように「自分とは釣り合わない」「身を引く」みたいな流れになるのだ。日菜子には学歴コンプレックスがあり、堅志のことを「自分とは違う世界の人間だった」と言うのだけど、自分がそれに追いついていこうと言う気力がないのだ。

一見すると日菜子は尽くすタイプの健気な女性なのだけど、別の方向から見るとパートナーを低い方へと引きずり込んでいく「サゲマン」とも言える。実際、日菜子のようなタイプの女性は吐いて捨てるほどいる。

「波乱万丈色々あったけど結局2人は元の鞘に収まりました」と言うハッピーエンドになっているものの、中年のオバサンが読むと「あなた達、それで40代、50代になったらどうするの?」みたいな気持ちになってしまった。どちらかが大病したら生活が破綻するのが見えていて現実だったら笑えない。

恋愛小説としては素晴らしいと思うのだけど、個人的に全く賛同出来ない作品…まさに恋愛小説の王道!

自分の生きられない人生を体験する味わうことが出来るのが恋愛小説の醍醐味とするならば『清く貧しく美しく』は上質な恋愛小説だと言える。世の中の風潮を上手く取り入れた秀作だと思った。

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