筒井康隆の作品を読むのはたぶん20年以上ぶり。
私はSF好きじゃないので、筒井康隆の作品は有名ドコロをさらった程度で読み込んでいない。
短編集に入ってた『定年食』がトラウマで、あれを読んでから彼の作品を手にとっていなかった。
「凄い作品を書く人だ」とは思うものの、微妙に苦手で読みたいと思わなかったのだ。
モナドの領域
著者自ら「わが最高傑作にして、おそらくは最後の長篇」と宣言する究極の小説、ついに刊行!
河川敷で発見された片腕はバラバラ事件の発端と思われた。美貌の警部、不穏なベーカリー、老教授の奇矯な振舞い、錯綜する捜査……。
だが、事件はあらゆる予見を越え、やがてGODが人類と世界の秘密を語り始める――。
アマゾンより引用
感想
しかし「筒井康隆最後の長編小説」などと煽られると気になってしまって、久しぶりに読んでみた。
残念ながら人間には寿命がある。老齢期に入られた作家さんの作品は「今のうちに読んでおかなくちゃ」と言う気持ちになってしまうのだ。
もちろん作品は作家の死後も残るので「今じゃなきゃ駄目」って訳ではないけれど。
河川敷に女性の腕が発見されるところから物語が始まる。「なるほど。これはミステリ小説って訳ですね」と思いつつ、読み進めていくと、ひとまず刑事のターンは終了。
唐突にパン屋の場面。そのパン屋では動物の形をしたパンが人気で、店の主人は美大生のバイトにパンを作らせているのだけれど、バイトの美大生が旅行で店を休むことになり、代わりに入った美大生が「人間の腕そっくりのパン」を作る。
「なるほど、猟奇的な話って訳です」と読み進めていたら、そうでもなくて全く別の方向に転換していく。
ここから先のあらすじは書き始めたらキリが無いので省略するけれど、とにかく息つく間がないほど一気に話が転がっていく。
「人間の腕そっくりのパン」のエピソード以降が作品の核になるのだけれど、ここから少し説教臭い。
宗教だの哲学だのを交えた問答になっていて、面白いと言えば面白いけれど「だからどうした」と言ってしまえば、それまでの話。
……とは言うものの文章に勢いがあるのでストレス無く読む事が出来た。
正直なところGODの語る言葉はそれほど心に響かなかったのだけど「なんてエネルギッシュな作品なんだ」と感心した。
筒井康隆は2016年1月現在81歳とのこと。
筒井康隆の作品と知らずに「若き新星と評判の高い作家の作品ですよ」と言われて読んでも納得すると思う。「なるほど、流石若い人の書いた作品なだけあって勢いがあるなぁ」と言う具合に。
それほどまで油ギッシュと言うかコテコテした作品に仕上がっていて「若い人に負けていない」どころか、ゲームで言うところのラスボス的な力強さを感じた。
私は筒井康隆のファンでもなんでもないけれど「筒井康隆って凄い!」と素直に思ってしまった。最後の長編と言わず、是非とも書き続けて戴きたいと思う。