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自画像 朝比奈あすか 双葉社

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『自画像』は胸くその悪くなる悪い作品なので万人にはオススメ出来ない。

つい最近まで学校にいた人には特に。

スクールカースト上位に属していたリア充系の人なら平気かも知れないけれど「学生時代からヲタクでした」とか「趣味は読書です」と言うタイプの人は読んでいてちょっと辛いかも知れない。

「学校」と言う閉鎖空間の描写がリアルで素晴らしい。胸くその悪い作品ではあるけれど、面白いと言えば面白かった。

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自画像 朝比奈あすか

ザックリとこんな内容
  • テーマは「教室」。
  • 主人公3人体制で描く胸クソ悪い系長編小説。
  • スクールカーストだったり、変態教師が登場したりと、とかく酷い。
  • 女性の心理描写、学校描写は驚くほどリアル。

感想

メイン主人公は学生時代に酷いニキビに悩んでいた成人女性。

それゆえに学生時代はスクールカーストの下位グループに属していて、イジメとまではいかなくても、辛い経験をする。前半はメイン主人公の語りで進んでいくのだけれど、後半は主人公の友達視点での語りが入り、物語の全容が見えてくる……と言うスタイル。

「学校」と言う特殊な社会の残酷さや、人間のドロドロした部分が鮮やかに描写されいた。

学生時代って、多かれ少なかれ誰もがこの作品の中に出てくる「嫌な世界」を垣間見るのではないかと思う。

「大人になった方がもっと辛い。学生時代の辛さなんて、なんて事ない」って人もいるだろうけれど、学校独特の息苦しさや残酷さは大人になってから経験する辛さとはまた別の種類の物だと思う。どちらが楽だなんて簡単には言えない。

この作品の中ではスクールカースト云々の話と平行して、児童性愛者の教師が登場する。

これが物語の大きな軸になるのだけれど、これがまた実に嫌なエピソードばかりで読んでいてとても辛かった。児童性愛者の教師は、それ相応の末路を迎えるけれど、胸のすくような結末ではない。

一応、話は丸くおさまっているしハッピーエンドと言えなくもないのだろうけれど、心のなかにモヤモヤした物が残ってしまった。

結局、誰も幸せになれそうにないところが、どうにもこうにも。本来、私は不幸な話とかバッドエンド的な話は嫌いじゃないのだけれど、この作品はイマイチ好きになれなかった。

悪くないけれど、ちょっと踏み込みが足りない感じ。たぶん男性の描き方がパッっとしないのが原因だと思う。

作者の他の作品を思い返してみても同じ事が言えるのだけど、女性の心理描写は抜群に上手いのに、男性はテンプレ的な人しか出てこないのだ。

「そこそこ上手いのに男性描写がパッっとしない作家」と言うと私は柚木麻子を思い浮かべるのだけど作者もこの流れの人だと思う。

「女性が読む女性のための物語」を書くと上手いのだけど、男性が重要なポイントを担うと失速してしまう感じ。

もしかすると作者はネガティブな話が向いていないのかな……と思ったりする。

ラストは希望のある締めくくり方だったけれど物語の面白さを追求するなら、もっと突き放してくれても良かった気がしてならない。

そこそこ面白かったし、そこそこ上手いと思うけれど「何かが足りない」残念な1冊だった。

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