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人間タワー 朝比奈あすか 文藝春秋

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なかなか面白かった。力作の部類に入ると思う。朝比奈あすかは私とさほど変わらない年齢なのに、子どもから老人まで上手いこと描く人だなぁ…と感心した。

前回読んだ『自画像』のように登場人物の世代を絞った作品よりも、この作品や『天使はここに』のように様々な年代の人が登場する作品の方が上手いと思う。

これだけ沢山の世代の心情を描き分ける事が出来る作家さんって、そうはいないし是非この路線で頑張って戴きたい。

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人間タワー

学校の組体操問題を背景に、親、子供、教師などの思いを細やかに描き出す。

バツイチの雪子は息子の運動会で小学校へ出かけるが、伝統の種目「人間タワー」を見た時、心の底に封印していた小学校時代のいじめの記憶がよみがえり……。

アマゾンより引用

感想

さて。この作品は題名から想像出来るように運動会で作られる「人間タワー」を中心に据えた群像劇。

個人的には「人間タワー」よりも「ピラミッド」の方がピンとくるのだけど、作品の中では「ピラミッドではなく人間タワー」と言うことになっている。

運動会のピラミッドではここ数年問題視されていて、数年前に中学校の運動会で10段ピラミッドが崩れて生徒が大怪我をした事が問題になりニュースを賑わせていたのが記憶に新しい。

ちなみに、私は当たり前のようにピラミッドを作った世代。

私は運動が苦手なのでピラミッド云々以前に運動会自体が嫌いだったので「ピラミッドは危険だから止めましょう」って流れになっても「今の子は楽でいいよね~」くらいにしか思わなかった。

娘の通う小学校では事件の影響でピラミッドどころか組体操自体無くなったのだけど、運動好きの娘が「組体操したかったなぁ~。私もピラミッド作りたかった…」と嘆いてるのを聞いて「世の中には色んな考えの人がいるんだなぁ」と感心した事がある。

この作品はその「色んな考えの人」それぞれの立場で人間タワーと向き合っているところが面白い。

中でも「ジュエル」と言うキラキラネームを付けられた小学生教師が際立っていた。

立場が変わると1つの物に寄せる感情がここまで違ってくるものかと感心させられた。それにしても朝比奈あすかは老人の気持ちとか、小学生の気持ちをどうしてあんな風に描けるのだろうなぁ。

私はまだ老人と呼ばれる年まで生きていないので、作品の中で描かれていた老人の気持ちがリアルなのかどうかは分からないけれど、少なくとも小学生の描写はリアルに感じられたし、昔の記憶が呼び覚まされるような部分もあったりして楽しませてもらった。

人間タワーの結末については、ここでは伏せておくけれど、突き詰めて言うなら正解なんて無いのだろうし作中で出された結論も1つの形なのだと思う。

気になる方は自分で読んで確かめて戴きたい。

一生心に残るようなタイプの作品ではないけれど、テンポが良くて楽しく読ませてもらった。次の作品を期待したいと思う。

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白い木蓮の花の下で
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