なにげに……宮澤賢治の持つ雰囲気と似ているような気がした作品だった。
時代背景の分からなさ加減だの、登場人物の変な言葉遣いや突飛な行動だの。ファンタジーや童話が苦手な人だったら、読むのが苦痛じゃないかと思われる。
私などファンタジーや童話が好きなタイプなのだが、しかし読むのが苦痛だった。
物語の世界にハマれなければ、とてもじゃないが読み通すのは苦行だと思う。それくらいダルイ作品だった。
麦踏みクーツェ
- 音楽にとりつかれた祖父と、素数にとりつかれた父、とびぬけて大きなからだをもつぼくとの物語。
- ある真夏の夜、ひとりぼっちで目覚めたぼくは「とん、たたん、とん」という不思議な音を聞く。
- 音楽家をめざす少年の身にふりかかる人生のでたらめな悲喜劇。
感想
ダルイのを我慢して読んでいると、ポツポツと宝石のような言葉やエピソードに出会うことがあり、その辺も少し宮澤賢治のそれと似ているかも知れないと思った。
心に深く染み入るような美しい文章は「珠玉」と呼んでも過言ではないだろう。
ただし、宮沢賢治よりも、ずっとダルイ……それが難点である。
この作品はYA(ヤングアダルト)というジャンルに分類されるらしい。
YA(ヤングアダルト)とは12歳から18歳までの人々……いわゆる思春期(第2次性微期)心も身体も発達過程にあるティーンズに向けて書かれた作品のことだが、どうやら私はYA(ヤングアダルト)というジャンルが好きじゃないみたいだ。
それほど数を読んでいないので、うなり声を上げてしまうような面白い作品があるのかも知れないけれど、児童文学ほど素直に楽しませてくれないし、一般の小説に較べると随分と薄っぺらいような気がする。
言っちゃぁなんだが、私がその年代の時に読んでいたとしても「薄っぺらい」と思っていただろう。
いらぬお節介だが、そんな年代の時こそ「濃ゆい」作品をどんどん読んだ方がいいように思う。
中途半端なオブラートにくるんだ作品ではなくて。これは、この作品に対しての感想というよりも、むしろYA(ヤングアダルト)というジャンル全般に対して思うことなのだけれども。
この作品のように児童書としては力不足だし、かといって一般の小説として分類するには……というようなタイプのものでもYA(ヤングアダルト)として出版されて需要があるのを考えてみれば、ある意味においてYA(ヤングアダルト)ってのも必要なのかも知れないとは思う。
隙間文学という感じで……
心に染み入る言葉を拾い出して読むには辛いが、かといって感じ入るところが無かった訳でもなく……という微妙な感想を持った作品だった。いしいしんじの他の作品の感想も読んでみる