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じい散歩 藤野千夜 双葉文庫

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藤野千夜の作品を読むのは4冊目。前回読んだ『団地のふたり』が比較的好みだったのだけど、もしかしたら私は藤野千夜の作風が好きなのかも知れない。

『じい散歩』は散歩が趣味の高齢男性の物語なのだけど、私の性に合う…とでも言うべきか、妙に肌に馴染む感じがする作品で気持ち良く楽しむことが出来た。

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じい散歩

ザックリとこんな内容
  • 明石家の主、新平は散歩が趣味の健啖家。妻は、散歩先での夫の浮気をしつこく疑っている。夫婦あわせて、もうすぐ180歳。
  • 明石家の息子達は3人とも全員独身(長男は高校中退後、引きこもり。次男は自称・長女。末っ子は事業に失敗して借金まみれ)
  • 散歩を通じて新平の過去と現在が語られていく。

感想

もしかしたら…だけど『じい散歩』の作者、藤野千夜の好きな物と私の好きな物は方向性が似ているのかも知れない。『じい散歩』は題名の通り、じいさんが散歩する話なのだけど、散歩以外にも大切なポイントがある。

  • 主人公は建築物(ビルとか住居とか)が好き
  • 主人公は食べることが好きで食べる食べ物描写が多い

私と夫はコロナ禍以降、ウォーキングにハマっていて『じい散歩』の主人公が歩きまくり気持ちは理解できる。そして私は若い頃ハウスメーカーで働いていてこともあるだけに建築物は大好き。そして食べることも好き。

正直なところ『じい散歩』は感動の超大作って訳じゃないし、キレのある作品…とも言えない。だけど、なんだか妙に私と波長が合ってしまったのだ。読んでいてとても心地良いし「そうそう。その感覚、分かる!」と新平の気持ちに寄り添って物語を追わせてもらった。

『じい散歩』は感覚的な意味で私の好みのド真ん中…って感じだったのだけど、それ以外の要素でも「現代日本だなぁ」と感心させられるところがあった。

主人公夫妻は3人の子を育ててきたのだけれど、その設定が今風だった。不登校からニートになった長男。自称「次女」を名乗る次男。そして借金まみれなのに夢を諦め切れない三男。3人の子どものうち2人は実家に同居している。

30年前なら「男の子が3人もいるのに誰も結婚していない」なんて事になったら肩身が狭いと思うのだけど、最近は「よく聞く話」でしかない。そして『じい散歩』では、主人公が結婚していない息子達と関わりながら飄々と暮らしているところに好感を覚えた。

どこの家庭も蓋を開けてみれば色々あるものだけど「それでも楽しく暮らしている」って素敵な事だと思う。

主人公の新平は息子3人の事よりも認知症の妻との関わり方の方が大問題。認知症とか老老介護を突っ込んでくるあたりが、より現実味があって良かった。

『じい散歩』は最後まで気持ち良く読ませてもらって大満足の1冊だけど「名作ですか?」とか「力作ですか?」と聞かれたら微妙かも知れない。建築物や食べることが好きじゃない人が読んだらツマラナイように思う。要するに読者を選ぶタイプの作品なのだ。

そんな訳で『じい散歩』は万人にはオススメできないけれど、街歩きとか建築物とか食べることが好きな人なら楽しめると思うし、この感想を読んで「ちょっと気になるな」と思って戴けたなら「ぜひ、読んでみて」とオススメしたいくらいには楽しませてもらった。

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