読んだ本の『50音別作家一覧』はこちらから>>

黄色い家 川上未映子 中央公論新社

記事内に広告が含まれています。

昨年読んだ『すべて真夜中の恋人たち』があまりにも好みから外れていたので「もう川上未映子は沢山だ」と思っていたのに、やたら高評価が流れてくる『黄色い家』が気になってしまって読んでみた結果…読んでみて良かった!

現代日本が抱えている腐った部分を的確に表現した意欲作だと思う。

決して気持ちの良い作品とは言えないけれど是枝裕和の映画が好きな人には刺さる気がする。

スポンサーリンク

黄色い家

ザックリとこんな内容
  • 十七歳の夏。貧しい母子家庭で育った花は母の友人だと言う黄美子と共に出て、黄美子と共に生活をはじめ、年齢を偽って場末のスナックで働きはじめる。
  • 最初は2人で暮らしていた花と黄美子だったが、花と同い年の蘭と桃子の2人がやってきて「黄色い家」で女4人の気ままな暮らしがスタートする。
  • しかし気ままな生活は長く続かず、少女達は生きていくためにカード犯罪の出し子というシノギに手を染める。

感想

なんかリアルで怖かった。『黄色い家』は未成年の少女がチームでカード犯罪を行う話なのだけど、そこに至るまでの経緯やその後の話がとてもよく出来いた。

とにかく登場人物の作り込みが凄いのだ。主人公の花だけでなく、脇役達も光っていた。例えばカード犯罪をする少女チームだけ取り上げると彼女達の過去はこんな感じ。

  • 花(リーダー) 貧困母子家庭育ちで高校中退。スナックでホステスをしていた
  • 蘭 元キャバ嬢。キャバ嬢として稼げないタイプで彼氏と同棲していた時期アリ
  • 桃子 容姿にコンプレックス有。X JAPANヲタク。私立底辺女子高から短大へ進学。

3人とも保護者がいい加減なタイプで家庭の中でキチンと育てられていない。設定的に花はそこそこ頭の良い子として描かれているけれど、蘭と桃子に至っては完全に頭が悪い子だってことが分かる。

そして彼女達と親子ほど年上の黄美子にいたっては難しいことを考えるのが苦手で明らかに知的障害のボーダーって感じ。黃美子の周囲の人間はその事に気づいていて、黃美子を気遣いつつも、詐欺集団の現場には入れないようにしている。

『黄色い家』に登場する人物は『ケーキの切れない非行少年たち』そのものだった。気持ちが悪いほどリアル。

私はけっこうな年齢になるまで犯罪って「悪いことが好きな人」がするものだと思っていたけど、大人になって色々な人と接するようになってから「悪いことをしたいって積極的に思ってる訳じゃないけど犯罪者になってしまう人」が一定数いることを知った。

『黄色い家』の登場人物達は犯罪者が多いのだけど、読んでいると彼らは犯罪者になるべくしてなったけれど「まともな家庭で養育されて正しく教育を受けていたら犯罪者にならなかったんじゃないかな?」と思えてしった。

環境が悪くて…あるいは知的に問題があって犯罪をおかしてしまうことを「仕方がない」と許すのではなくて「そういう人間が増えないような対策」を考えていく必要はあると思う。

そして『黄色い家』はリアルなのも良かったけれど知的な障害(たぶんボーダー)を抱えている人とそうでない人の通じない感じが切なくてたまらなかった。

主人公の花は黄美子さんの事が大好きで色々頑張ってはいたけれど、黃美子さんは花の気持ちをしっかり理解することは出来なかった。もちろん黃美子さんも花のことは大切に思っていたのだろうけど(てか、そう思いたい)、花が抱いていた気持ちとはズレがあったよなぁ…と。

容量の多い作品でエピソードを詰め込み過ぎなところもあるけれど、どのエピソードもそれぞれに良かった。そもそも登場人物の1人1人が主人公級のエピソードを持っているので息つく暇がなかった感じ。

面白くてイッキ読みしてしまったけれど、少し間をおいてゆっくり再読したい。

50音別作家一覧はこちら

作家名・作品名等で検索出来ます
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました