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怒り(上下) 吉田修一 中公文庫

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吉田修一の作品ってかなり好きなのだけど、読むのにやたらエネルギーが必要だし、読後感が重いので3年に1度くらいのペースでしか読めない。今回は前回読んだ作品が吉田修一にしては比較的軽めだったので、あまり間が空いていないのだけど油断していた。

猛烈に面白かったけれど、読んでいて凄く疲れて消耗した。

吉田修一は罪とか人間の黒い部分を描くのが上手いなぁ。そしてほんの少し「救い」の要素をひとつまみ…みたいな世界観。すっかりのめり込んで読み耽ってしまった。

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怒り(上下)

ザックリとこんな内容
  • 若い夫婦が自宅で惨殺され、現場には「怒」という血文字が残されていた。
  • 犯人は山神一也、二十七歳と判明。だが、その行方は杳として知れず捜査は難航していた。
  • そして事件から一年後…千葉の港町で働く槙洋平・愛子親子、東京の大手企業に勤めるゲイの藤田優馬、沖縄の離島で母と暮らす小宮山泉の前に、身元不詳の三人の男が現れる。三人の男は山上一也と似ている部分があるのだが…

感想

ネタバレをせずに説明させて戴くと『怒り』は「残酷な殺人事件を起こして逃亡している犯人は誰なの?」ってところがベースになっている。犯人である山神一也に似ている三人の男。ふらりと現れたその男を受け入れた人達が「あれ?コイツって殺人犯じゃないの?」となった時の不安や葛藤…みたいな物語。

「山神一也かも?」と思われる男が三人登場する訳だから、3つの物語と舞台設定が用意されていて、ちょっとした連作短篇みたいな感じに仕上がっている。読者は神の視点で読み進めていくので感の良い人ならすぐに犯人が特定できると思う。一応、ミステリ小説の体を成しているけれど『怒り』の本質は謎解きではない。

3つの物語は揃いも揃って、やるせなくて嫌な話ばかりだった。そして「誰かを愛し信じ抜く」ってことの難しさを問うてくるのだからたまらない。

吉田修一って作家は人間を描くのが上手過ぎる。

3つの物語に登場する人達は特別な人ではなくて、全員「そここで生活してるい普通人」ばかり。生活する環境も年齢もセクシャリティも違うけれど、善人でも悪人でもない。ちょっぴり不幸要素が入っているけれど絶望的に不幸な境遇って訳じゃなくて、それぞれに家族がいて支えてくれる人がいる。なのに彼らの人生は順風満帆にはいかない…ってところが、やり切れない。

「3つの物語のどれが1番好きだった?」と聞かれても私には1番を決めることができない。それくらいどの物語も良かったのだ。そして、その3つの物語のベースにあるのは「愛」だった。

めちゃくちゃ色々語りたい気持ちがあるけど「ネタバレしたくない」ってところで今回はあえて詳しいアレコレは書かないけれど、なんかこう…猛烈に心をかき乱される作品だった。

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