「少女漫画の基本ここにあり!」と叫びたいような物語だった。当時、少女達の間でどれだけ愛されたかは想像に難くない。
お金持ちの赤ちゃんと、貧乏人の赤ちゃんが取り違えられて、運命に翻弄されながらも健気に生きる……という波乱万丈の昼メロ仕立て!(実際ドラマ化されるにあたり文庫本化されたらしい)
ストーリーテラーとしての吉屋信子の実力が存分に発揮された作品だと思う。
『冬の輪舞』(ふゆのりんぶ)は、東海テレビ制作で、2005年1月6日から4月1日までフジテレビ系列で放送された昼のテレビドラマである。3部構成・全62回放送。
Wikipediaより引用
あの道この道
- 富豪の大丸家の別荘で女の子が生まれる。母親は出産の疲労から急逝。
- 女の子は同じ日に娘が生まれた漁師の家に預けられた。
- 数日後、娘を迎えに来る大丸氏。しかし、その手に戻されたのは実は漁師の娘だった。
- 取り替えられて富豪の娘となった漁師の娘と、漁師の娘として育てられる富豪の娘の数奇な運命を描く。
感想
「少女小説である」と意識した上で読んだとしても、両手を挙げて「ブラボー」と言えないのも事実である。
時代背景的に、仕方ないことではあるのだが「高貴な血筋」というところが、やたらとクローズアップされているところが、現代人である私としては「いくらなんでも、ちょっとなぁ…」と思わざるを得なかった。
それに、いくら少女小説だと言っても、貧しい漁師の娘として育ったヒロインが、あんな美しい言葉遣いをするはずないよね……といった突っ込みどころが多いのも気になるところだ。
人間は環境の動物であるからして、育ちというものはおのずと滲み出てくるものだと思うのだ。
ただ作者が好んで使う「美しい言葉」であるとか「美しい文章」あるいは「思いやり溢れる心」などというアイテムが当時の少女達にどれだけ影響を与えたか……ということを推察すると「そんな訳ないだろうに」という突っ込みなど、どうでも良いことのように思える。
ロマンティックな物語に心ときめかせながら「私も立派な人間にならなきゃ」と思った少女は決して少なくなかっただろう。
吉屋信子の少女小説を読むのは、これで3冊目。
個人的には『屋根裏の二処女』がお気に入りだけど、エンターテイメントとしては、この作品が最高ではないかと思われる。
好みはともかくとして、妥協しないプロの仕事を読ませてもらった……と思う1冊だった。