お久しぶりの吉田修一。前回読んだ『アンジュと頭獅王』は2019年の年末だったから、本当にご無沙汰していたみたい。吉田修一は私にとって「まあまあ好き」くらいの位置にいる作家さんなのだけど、そうガツガツ読みたいタイプではないけれど「あの世界観に浸りたい」と思う事がたまにあって『路』はまさにそれ。
台湾新幹線の物語と聞き「最近、台湾にルーツを持つ作家さんが増えてきているし、なにげに台湾ブームよねぇ」と手に取ってみた。
「最高の作品です!」とまでは思わなかったものの、台湾が好きだったり興味のある人だったら面白く読めると思う。台湾新幹線の建設がベースになっているのでお仕事ドラマが好きな人もそこそこ楽しめるかと思う。
路
- 1999年、台湾~高雄間の台湾高速鉄道を日本の新幹線が走ることになり、台湾新幹線開発事業部に勤務する多田春香は台湾出向を命じらりる。
- 春香には大学時代に初めて台湾を訪れた6年前の夏、エリックという英語名の台湾人青年とたった1日だけすごし、その後連絡がとれなくなってしまった…と言う思い入れのある土地だった。
- 1999年から2007年にかけて台湾新幹線の着工から開業するまでの道程とともに、台湾新幹線に係わる人達とその周囲で生きる人達の生き様を描く。
感想
台湾新幹線の建設に係わるゼネコン勤務の女性の物語なのかな…と思って読み始めたのだけど台湾新幹線周囲にいる人達の群像劇だった。なので「1人の人物に沿って物語を楽しみたい」ってタイプの人には向かない作品だと思う。
群像劇であるがゆえに掘り下げが浅い部分が多く、人物描写や説得力については物足りないところもあったものの「台湾を知る」と言う意味では面白い作品だった。台湾の風土や台湾人達の考え方や日本と台湾の関係など、知らない知識が沢山詰め込まれていたので面白く読み進めることができた。
だけど「お仕事小説」として読むと少し弱い気がする。
どちらかと言うと、お仕事小説の要素よりもヒロイン春香の恋愛要素の方が強いのだ。思えば吉田修一の作品って、これまでも恋愛要素が強かったなぁ~と。恋愛小説とまではいかないのだけど、物語における恋愛の占める割合はかなり高い。だけどこればかりは好みの方向性だと思うので良いとか悪いとか…って話ではない。
群像劇としてはよく出来た部類の作品だと思う。メイン主人公は春香…って事になっているけれど、脇主人公とも言える台湾から引き上げてきた葉山勝一郎の物語も良かったし、台湾人エリックとその周囲にいる人達のエピソードも面白かった。
唯一、残念だと思ったのは春香の恋人の繁之の描かれ方。あまりにも春香に都合の良い展開で「そんなに上手くいくのか?」と首を捻ってしまった。ハッピーエンドではあったけれど「そんな簡単に立ち直れるとは思えないんだけど…」とモヤモヤした気持ちが残ってしまった。
……とは言うものの『路』が読み応えのある作品だったことには間違いないし、台湾に興味のある人は読んでみることをオススメする。今すぐに行きたい…とかそういう訳じゃないけれど「私も死ぬまでに台湾に行ってみたい」と思うくらいには楽しませてもらった。