朝倉かすみの作者は初めて読んだ『タイム屋文庫』で無理だと思って『田村はまだか』で見なおした。
そして『わたしたちはその赤ん坊を応援することにした』を読んで「これはイケるかも」と思って今回の作品を読んだのだけど、今回は惨敗だった。
少しだけ、おともだち
ご近所さん、同級生、バイト仲間や同僚―。夢とか恋バナとか将来を語ることもあるけど、ほんとうに大切なことはそんなに話してないかもしれない。女同士ってちょっとむずかしい。でもたった一人は寂しいからやっぱり「おともだち」は必要だ。仲良しとは違う微妙な距離感を描いた短編集。書き下ろし「最後の店子」「百人力」を加えた10作品を収録。
アマゾンより引用
感想
軽く嫌な感じの短篇集なのは『わたしたちはその赤ん坊を応援することにした』と同じ路線なのだけど、どの話もビックリするほど雑な印象。
どの作品も設定が甘い。
小説に設定に関するツッコミを入れるのは野暮なようではあるけれど「こまけぇこたぁ、いいんだよ」と流せるような勢いのある長編小説ならいざ知らず、現代設定で「あなたの身近にある悪意」をテーマに描くなら、リアリティは必要じゃないかと思うのだ。
まず、しょっぱなに入っている『たからばこ』が酷かった。
幼稚園児が主人公なのだけど、幼稚園バスで幼稚園に通っている女の子が幼稚園から帰宅して、1人でお邪魔した事のないお宅へ遊びに行く。
これは「ちょ? いつの時代? 昭和かよ?」と突っ込まざるを得ない。未就学児の女児が1人で出歩くなんて『サザエさん』じゃあるまいし今の時代では考えられない。
地域で子どもを見守っているような田舎ならまだしも、都会設定でそれはない。
たぶん、朝倉かすみは主人公が犯罪に巻き込まれるオチを書きたかったのだろうけれど今の日本とあまりにもかけ離れている。
それに幼稚園児がビスクドールで遊ぶという描写にも無理があり過ぎる。
ビスクドールが好きな幼稚園児だなんて一般的とは言えないし、もちろんそういう感性の子がいるのは理解しているけれど、それならそのネタだけで1冊本が書けるだろう。
「まぁ、そうは言っても他の作品は面白いのかも」と思って読んでみたけれど、やはりどの作品も設定が甘い。
私はいつも桐野夏生の作品を読むと「自分の知らない世界を、よくここまで見てきたように書きましたね!」と毎度関心させられるのだけど、この本に書かれている作品は「自分の知らない世界を書くのが悪いとは言わないけれど、それなれそれでちゃんと調べてましょうよ」と思ってしまった。
どの作品も『わたしたちはその赤ん坊を応援することにした』に通じる「嫌な感じ」のする話で、そのノリは嫌いじゃないし、登場人物の心の描写は上手いと思う。
しかし話の作りが雑過ぎる。もう残念過ぎてたまらない。
どうしてこんな通り一遍の話ばかり書いちゃってるんだろう? それとも、もともとこういう作風の作家さんなのだろうか?
面白くない訳じゃないだけに残念でたまらない1冊だった。