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さいごの色街 飛田 井上理津子 新潮文庫

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大阪にある「飛田新地」を取材したルポ本。

飛田新地はかつて「飛田遊郭」と呼ばれていた場所で、現在も営業が行われている。私は女性なので行った事はないけれど、実際に行った事ある男性達は「いまだに遊郭があるなんて信じられない」と口をそろえる。

下衆な興味から読んでみた。

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さいごの色街

「おにいちゃん、遊んでいってや」
客引きのおばちゃんの手招きで、男が一人、また一人と店に上がる。

大阪に今なお存在する「色街」飛田。

経営者、働く女たち、客、警察、ヤクザらの生の声に耳を傾け、「中」へと入り込んだ著者が見たものは、人間の性むき出しの街で懸命に生きる人々の姿だった。

十二年にわたる取材により、一筋縄ではいかないこの街を活写したルポルタージュの傑作。

アマゾンより引用

感想

興味のある人には面白い作品だと思う。感想は「よくこれだけ書けたな」と言うことに尽きる。作者の情熱と勇気には恐れいる。

ノンフィクション作家って、小説家よりも低くみられがちだけど、決してそんな事はない。

決して諦めない強い心、そしてインタビューをさせてもらうためのコミュニケーション能力。どれを取ってみても「私にはとても出来ない」としか言いようがない。

そして肝心の内容だけど、これについては特に目新しい情報は無かったな……と言う印象。

何しろ飛田新地の人達の口の堅さは天下一品。肝心のところは黙して語らず。料亭の店主にしても、働いている女の子にしても通り一遍の事しか話をしてくれないのだ。

「まぁ、そりゃそうか」と言う事情があるだけに、あれ以上の取材が無理だったって事は充分理解できるし、むしろ「これだけインタビュー出来るだけでも凄いと思った。

スッキリ爽やかな気分になれるタイプの作品ではないけれど「どっこい。それでも生きている」という強い生命力の宿った作品だと思う。

法律的、倫理的な事を言い出したら、飛田は「悪」でしかないけれど、私はそこで働く人を責める気にはなれない。

私は運良くそういう道を歩むことなく生きてきたけれど「私には関係ない」とはとても言えない。

作品の最後には「この作品を読んで行ってみたいと思っても物見遊山で行かないでください」と書かれてあった。「客としてお金を落としに行くならいい」とも。

作者、井上理津子のこの言葉は飛田の全てを語っていると思う。

私は大阪に住んでいるので「飛田」について話を聞く機会が何度かあったけれど「女性の行く場所ではないし、面白半分で言ってはいけない」と言う事は話をしてくれた人全員が必ず口にしていたように思う。

「面白い」というと不謹慎な感じがするけれど、実際のところ読み応えのある素晴らしい作品だった。

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