アニー・エルノーは初挑戦の作家さん。2022年のノーベル文学賞を受賞している。その作品のほとんどは自伝とのことで、最近の日本で言うなら西村賢太的な感じ。西村賢太は「小学校卒で無学な自分」を前に出していたけれど、アニー・エルノーは大卒女性であることを推してくるので方向性は違っている。
そもそも現代日本で自伝小説を書く女性作家さんって今はあまり思いつかない、昭和の頃は瀬戸内寂聴とかいた気がするのだけど。
いきなり結論を書いちゃうけれど、私の好みの作品ではなかったものの「なるほどノーベル文学賞受賞するの分かるわ」と納得させられる作品ではあった。
嫉妬/事件
- 『嫉妬』と『事件』の2作品を収録、
- 『嫉妬』は別れた男が他の女と暮らすと知り、その女まことしか考えられなくなった女性の姿を描く。
- 物語の舞台は1963年。中絶が違法だった時代のフランスで妊娠してしまったものの、赤ん坊を堕ろして学業を続けたい大学生の苦悩と葛藤を描いた作品。
感想
『嫉妬』にしても『事件』にしても猛烈に女性らしい作品だった。正直、個人的には「私には関係のないタイプの女性」って感じだったけれど、人によっては「ここに書かれているのは私だ!」と感じてしまうかも知れないなぁ~なんて。
『嫉妬』は嫉妬にかられた女(私)がストーカー化していく様子を丁寧に描いている。「ストーカー気質のある人ってこんな感じなんだろうな」と興味深い内容だった。なんと言うのかな…中盤以降は「もしかすると自分を捨てた男以上に嫉妬対象の女性が好きになっちゃってるのでは?」と感じてしまった。
アニー・エルノーが『嫉妬』の中で描いたものは「全ての女性に当てはまるもの」ではないと思う。あくまでも「これは一例です」ってこと。それはそれとして時代や国を越えて「ああ…確かにこうなっちゃう人っているよね」と言う普遍性を感じた。
『事件』は妊娠中絶が法律で認められなかった頃に未婚で妊娠した女性が闇業者で中絶をする物語。こちらは読んでいて、ちょっとしんどくなってしまった。
妊娠って決して1人では出来ない事なのに、いつの時代も不利益をこうむるのは女性なのだよなぁ。私には高校生の娘がいるので妊娠については口を酸っぱくして言ってある。