『乙女の密告』は2010年度の芥川賞受賞作。
近年、芥川賞作品には全く期待していなくて、この作品も読むつもりは無かったのだけど「ミステリー要素は無い」と言う噂を聞き、さらに「乙女」というキーワードに心惹かれて手に取った。
結論から先に言うと予想通り「ガッカリ」だった。
乙女の密告 赤染晶子
- 作品の舞台は京都の外国語大学。
- 主人公は女子大生。
- 外国語大学で流れた教授と女学生にまつわる黒い噂が流れる。
- 主人公はスピーチコンテストの課題『アンネの日記』暗記に懸命になる。
- 『アンネの日記』の謎に迫りつつ、現実の物語が展開していく。
感想
物語には『アンネの日記』を絡めてあるので『アンネの日記』が好きな人は、それなりに面白く(……と言うか興味深く?)読めるかも知れない。
ちょっと独特の文体で、エネルギッシュな頃の姫野カオルコを彷彿とさるものだった。それなり高尚っぽいテーマ(?)を持ってきているけれど、一歩間違えればラノベと言っても良いと思う。
間違いなく好き嫌いが分かれると思う。決して悪くは無い。
だが少なくとも新鮮味は無かった。姫野カオルコ、小川洋子の2番煎じと言う印象。
個人的には「乙女」のキーワードと作品とが合致していないように思えてならなかった。女子大生に「乙女」の冠をかぶせるのは、ちょっと無理がある。
一応「今時の女子大生とは一線を画した人達」って設定になっていたし、アンネの日記とリンクさせることで「乙女」を使いたかったのだろうけれど、ここで乙女って言葉を使われてもなぁ……と思ってしまった。
作者の言いたいことは分からなくもない。「女子大生」と言っても1つのイメージで括ることは出来ないのだから。
俗世間に疎いガチガチの頭デッカチの娘さんなら「乙女」と言っても良いのでは?ってことなのだと思うのだけど、それはちょっと独りよがり過ぎやしないだろうか?
姫野カオルコもこの路線で作品を作っていたけれど、彼女の場合は集団ではなく個人を描いていたので違和感は無かった。しかし、この作品の場合はちょっとなぁ……。
私は個人的に「乙女」とか「少女」が大好きなので、その辺のイメージに関してコダワリが強すぎるのだと思う。
自分の好みの沿わない作品は受け入れられない傾向にあるのだけれど、この作品はそれを抜きにしても、どうかと思った。
文章に勢いのある作家さんだったので、もう1作くらいは読んでみようかとは思う。
もうちょっと直球な感じの話なら読めるかなぁ……とか。
それにつけて近年の芥川賞作品の酷さには目を覆うものがあるなぁ。「今回は裏切ってくれるかも」なんて、もう2度と思わないようにしようと心に決めた1冊だった。