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イエティの伝言 薄井ゆうじ 小学館

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うーむ。面白かった。文句なしに良かった。恋愛小説……ってわけではないのだけれど「愛」の描かれ方が、ものすごくツボだった。

「だよね。だよね」と何度も頷き、しみじみ感じいってしまったのだ。愛……といっても、人間とイエティの愛だけれど。

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イエティの伝言

19世紀末に足跡が発見されて以来、何度も目撃されているというヒマラヤの住人・イエティだが、その実体はいまだに謎だ。

本書は、イエティのリーダーが捕獲されたことで明らかになったその生き方や能力が、人間の欲望に翻弄されていく物語。

架空の土地や謎の生物を描きつつ人間社会に疑問を投げかける筆者の真骨頂。

「文明という集団主義は、そうして個人を駄目にし続けてきた」というメッセージが心に響く。

アマゾンより引用

感想

ごく平凡な日本人男性が、レッキング先で「イエティ」を捕獲したために、厄介ごとに巻き込まれる……というのが大筋になっていた。

イエティとは猿やゴリラに似た動物だが、人間の言葉を理解する知的生命体である。

彼らは言語を持たず、意思の疎通は「伝播」という方法で行われる。イエティは3000人ほどの集団で暮らしているが、何よりも孤独を愛し、独立独歩の生活を送っている。

物語自体も、なかなか面白かったのだけれど主人公が最初に捕獲した「センセー」という賢者タイプのイエティと、主人公を愛してしまった「ライチ」というイエティが魅力的で「好きにならずにはいられない」というほどに、どっぷりハマってしまったのだ。

薄井ゆうじの作品を何冊か読んでみて「魅力的なじいさん」を書かせたら、彼の右に出る人なんて、いないんじゃないか……なんてことを思ってしまった。

ストックホルムの鬼』を読んだときに、作者の描くセックスは互いの孤独を深めるために行う交合のようだ……なんて感想を書いたけれども、この作品もまた同じようなパターンのセックスと愛が描かれていた。

この作品ではイエティという異形の者に愛を託したことで、こっ恥ずかしいような主題をマイルドに仕上げているもののじっくり読むと、相当切ない。

切ないなんて言葉では生ぬるいかも知れない。哀しくて、辛い。

互いを理解することの難しさや、しょせん人は孤独な生き物だという強烈な痛みを土台にした愛の深さになんだかクラクラきてしまった。

そして「愛が人を破壊する」という設定も、ファンタジーの小道具ではなく、人の世の常を暗示しているようで興味深かった。

私は「お手上げ」としかいいようのないくらい、ぞっこん惚れ込んでしまった作品なのだが、単純に「不思議動物発見ファンタジー」として読んでしまうと、ツマラナイかもしれないなぁ……と思ったりもする。

図書館で借りた本なのだけれど、自分の手に入れておいた方がいいかも知れないなぁ。

ともかく、最近の読書不振を吹き飛ばしてなお、ありあまるような本好き冥利に尽きる1冊だった。

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