数ある有吉佐和子作品の中で、後味の悪さは1、2位を争う作品。
面白くないかと言うと、そうとは言う訳ではないのだけれど、読後がどうにもやれ切れない。重々分かっていたはずなのに、うっかり再読してしまった。
有吉佐和子の底意地の悪さが盛り込まれた作品だと思う。
機を織る事と、一家の主婦として女として生きることに全てを捧げたヒロインと、戦争の後遺症から抜け出せなかったのをキッカケに、結城の埋蔵金伝説にハマり込んでしまった男達の物語。
鬼怒川
鬼怒川のほとりにある絹の里・結城。貧農の娘チヨは、紬織りの腕を見込まれて、16歳で日露戦争生き残りの勇士のもとに嫁いだ。
気のいい婚家の人々の中で、彼女は幸せになれるかに思われた。
しかし、夫も、太平洋戦争から復員した息子も、そして孫までも“黄金埋蔵伝説”にとり憑かれ、悲惨な運命を辿る…。
アマゾンより引用
感想
ヒロインは、昔風の「日本の母像」として描かれている。働き者で、家族思いの愚直な女性。
ヒロインは織り手としての自分の技術に自信を持っていて、なおかつ機を織ることが大好き…という点で、普通の人とは一線を隔しているが、それでもポジションとしては「ごく普通の妻・母」なのだと思う。
ご近所を歩けば、そこここに存在する、善良な母親達の姿とヒロインとを重ね合わせずにはいられない。
ヒロインの生き様は、愚かしい部分もあるのだけれど、一種の清々しささえ感じるのだ。
清々しささえ感じる女の生き様と対になっているのは、戦争の後遺症から抜け出せなかった男の生き様だろう。
彼らの生き方はもどかしく、その最後は無様だ。だが「女=強い」「男=弱い」という単純な図式で考えてはいけないのだと思う。
戦争に行かなければ、立派な男、あるいは夫であっただろう人間が、駄目人間になってしまったという事実を読み飛ばしてはいけないのだ。
女と男を好対照として描く手法は『針女』のそれと似ているように思う。
『針女』のヒロインは独身だったが、この作品のヒロインは既婚者である。2作品に優劣を付けるのは難しいが、ヒロインの背負っている物が多い分だけ『針女』よりも、この作品の方が深いように思う。
この作品の中で、もう1つ注目したいのは老醜の描き方だ。
作者は老醜を描くのが、やたらと上手い。「そこここに存在するる善良な母親」だったヒロインが、醜く老いていく姿は圧巻である。
そして、そのままのノリでラストに持っていく上手さも素晴らしいと思う。
おかげで読後感はかなり悪いのだけど。決して好きな作品ではないが、有吉佐和子好きならば押えておきたい1冊である。