桜餅のような、やさしい味わいのある小説だった。
表紙もほんわか可愛らしいし、途中に入る挿絵も素敵。古き良き日本の田舎暮らしに酔いしれてしまった。
宮崎アニメ『平成狸合戦ぽんぽこ』で狸たちが夢描いていたのは、こういう暮らしだったろうか……なんてことを思った。
オカメインコに雨坊主
乗る列車をうっかりまちがえて辿りついた村。
ユニークでちょっと不思議な住人たち、静謐で馥郁とした時間、そして呼び覚まされる懐かしい記憶の欠片…
よろず屋のばあちゃんとその孫娘チサノの家に居候するうちに、画家の「ぼく」の心は温かく満たされてゆく―。
生きることの愛しさが心にあふれる、至福の“スローノベル”。
アマゾンより引用
感想
主人公が画家で「絵」の話が随所に出てくるのがとても良かった。
キリスト教徒のノートン先生との問答のような会話も洒落ていて素敵。美しい風景の中での美しい物語。
ラスト近くで語られる「亡くなることが不幸でないと分かっていても私は哀しい」と言ったノートン先生の言葉が心に染みる。そして、その言葉と対になっているようなラストの一文が、とても良い。
きっと元気で生きていけると思うよ、そのときがくるまで
そこにある死と、そこにある生の美しさが鮮やかに描かれていたと思う。
絵本のようでいて絵本ではなく、ムツカシイ小説のようでいて易しい、なんとも言い難い作品である。装丁も挿絵も素晴らし過ぎる。
しいて欠点をあげるとするなら題名と内容がしっくりと合っていないということだろう。題名のつけかたって、重要だと思う。
図書館生活に入って、そろそろ1年になるが、こういう本を借りて読んでいる自分は、ひどく貧しい人間のように思えてしまった。
金銭面での貧しさというよりも、むしろ心が貧しいというような。
図書館生活をそろそろ卒業しようか……とまで思ってしまったほどだ(もうちょっと続けるつもりだが)それくらい手元において愛しみたい1冊なのだ。
さらっと読んでオシマイではなくて、何度も何度も繰り返して読みたい作品である。