ウマ娘に激ハマりした夫がウマ娘を拗らせた末に『馬の瞳を見つめて』を読んでみたいと言い出した。
『馬の瞳を見つめて』はウマ娘でも大人気のナイスネイチャを排出した渡辺牧場(現在は生産牧場ではなく引退馬を育てる養老牧場になっている)に嫁いだ作者が書いたエッセイ。もともと6000冊しか出版されておらず、現在は大絶賛絶版中。アマゾンではとんでもない価格になっているので、図書館で借りてきた。
ちなみに地元図書館に蔵書がなく、別の図書館から貸していただく…と言うお手数をかけて手元に届いたので申し込みから手元に届くまでかなり時間がかかってしまった。
馬の瞳を見つめて
- 現在、引退馬を育てる養老牧場『渡辺牧場』で引退馬の世話をしている、作者の書いた競馬馬にまつわる自伝的エッセイ。
- 幼少時の思い出からはじまって、私は牧場に嫁ぐ経緯、渡辺牧場で出会った馬達との日々を描く。
- 馬の生き方、死に方を考え続け、引退馬の幸せのために奔走する日々が綴られている。
感想
作者である渡辺はるみさん、昭和47年生まれの同じ年だった。作家には基本的に「さん」をつける必要がないとされているけれど『馬の瞳を見つめて』の場合、作者は作家…とは言い難いので、ここでは「さん付け」でいこうと思う。
さて。この渡辺はるみさん。ものすごく情熱的な人生で驚かされた。
- 子どもの頃から動物が好きだった←分かる
- 獣医になろうと思って獣医学科に進学した←すごい(分かる)
- 学生時代のアルバイトで北海道に行った←分かる
- アルバイトの経験から馬が大好きになった←分かる
- 牧場の跡取り息子と結婚した←ファッ???
- 解剖とか無理だし馬の事しか考えられないから大学辞めた←ファッ???
渡辺はるみさんは「好きなものがあれば一直線」って感じの人なのだと思う。その対象がたまたま馬だっただけの話で、この人はきっと何をやっても突き詰めていくタイプではないかと思う。
渡辺はるみさんが嫁いだ渡辺牧場は元々サラブレッドの生産牧場でウマ娘でも大人気のナイスネイチャを送り出している。都会からやってきた嫁な訳だけど渡辺牧場の家族は彼女を温かく迎え入れてくれたとのこと。
馬と寝起きを共にするようになり、渡辺はるみさんの馬への愛情はどんどんと膨らみ、その方向は「引退馬の行く末」にまで向いていく。
私も先日『今日もどこかで馬は生まれる』と言う映画を観るまで知らなかったのだけど、引退したサラブレッドで種牡馬になったり、乗馬クラブや伝統行事に参加するような馬は恵まれた一部の馬だけで、多くの馬は屠畜され、馬肉になるとのこと。正直しショックだった。
渡辺はるみさんは「自分が育てた馬を自分が最後まで看取る」と言うことと「馬の最後は安楽なものであるべき」との考えを持ち、やがて渡辺牧場は生産を辞めて養老牧場へと形を変える。
私はウマ娘がキッカケで競馬に興味を持つようになったけれど、馬券は買わないし競馬場に行ったこともない。だけど基本的に動物は好きなので渡辺はるみさんの気持ちは分からなくもない。
……だけど、私はその一方で「馬を屠畜するのは駄目だけど牛と豚はOKなのはどうなのよ?」みたいな気持ちが捨て切れないので、渡辺はるみさんの考えに全面的に賛成することもできかった。
犬でもネコでも同じことだけど動物を飼うにはお金がかかる。大きい動物となれば、なおさらだ。「引退馬を幸せにしたい」と言ったところで実際に最後まで面倒を見ることができのは、限られた数頭だけの話だ。
厳しいことを言うようだけど馬を経済動物として考えるのであれば、渡辺はるみさんのやっていることは彼女の道楽でしかない。
「馬の福祉」を究極的なところで考えるのなら競馬を止めるしかないと思う。もしくはサラブレッドの馬主に最後まで馬を看取る義務を課すか。そんなの、どちらも出来っ子ない。
競馬を廃止するなんて競馬ファンが許さない云々…以前に、競馬を生活の糧にしている人間の数を考えるとなぁ…って話。
地方競馬の総売得金(馬券の売上げ)は3000億クラス。これって想像を絶する数字だ。
日本の企業で言うと年間3000億クラスの収益があるのはファミリーマート、ニトリホールディングス、ヤフー、野村総合研究所、グリコ、ヤクルト等が挙げられる。なお、この3000億と言う金額は地方競馬の馬券の売上だけの話なので競馬界全体のお金の動き…と言い出すと恐ろしいものがある。
「馬が可愛そうだから競馬は駄目」なんてことは軽々しく言えないし、それはたぶん競馬関係者は暗黙の了解なのだと思う。
……とは言うものの「引退馬が出来るだけ幸せにあるようにしたい」と言う渡辺はるみさんの志は尊い。
渡辺はるみさんをはじめ、引退馬のことを考える活動をしている人がいるからこそ幸せな引退馬生活を送る馬がいるのだと思えば、渡辺はるみさんの活動は大きな意味がある。
私は渡辺はるみさんの行っている活動が良いとか悪いとかを軽々しく口にすることが出来ないけれど、少なくとも競馬ファンは自分達が楽しんでいる遊びがどういう形で成り立っているのかを知っておいても良いのではないかな…と思う。