今にはじまった事ではないが、中山可穂の描く男性は酷い。
どの作品も男性はおざなりに描かれていて、細部まで丁寧に描かれている女性に較べると、粗野でいい加減な印象を受ける。
この本は表題作他数本からなる短編集なのだが、その中の何本かは「そりゃ、ないわ」と思わず声を上げてしまうほど、男性の描かれ方が酷かった。
中山可穂は男性に対して何か恨みめいた感情を持っているのではないか…と思うほどに。
サイゴン・タンゴ・カフェ
インドシナ半島の片隅の吹きだまりのような廃墟のような一画にそのカフェはあった。
主人はタンゴに取り憑かれた国籍も年齢も不詳の老嬢。しかし彼女の正体は、もう20年も前に失踪して行方知れずとなった伝説の作家・津田穂波だった。
南国のスコールの下、彼女の重い口から、長い長い恋の話が語られる…。
東京、ブエノスアイレス、サイゴン。ラテンの光と哀愁に満ちた、神秘と狂熱の恋愛小説集。
アマゾンより引用
感想
私は中山可穂の作品が好きだ。
少し耽美で鼻につく文章や「頭オカシイんじゃない?」と思えるほどエキセントリックな登場人物を愛してやまないけれど、もう少し男性をまともに描けない限り「レズビアンの恋愛を描く作家」という肩書きからは抜け出せないんじゃないか思う。
それはそれでアリなのだろうが、それでは作家としての幅が狭まってしまうような気がして勿体無いように思うのだ。
いつまでたっても同じところをループしているような印象を受ける。それが作者の魅力と言えばそうなのかも知れないが。
今回の収録作は面白いと思ったものと、そうで無かったものの差が激しかった。
表題作の『サイゴン・タンゴ・カフェ』は「毎度おなじみの中山可穂節」という感じで面白かった。
生きるか死ぬかの恋愛というのだろうか。良い感じで酔わせてもらった。ラストは相変わらず甘く仕上がっていたけれど。
以前は「ラストがいつも夢物語的で物足りない」と思っていたが、今回は「まぁ、夢物語もアリかもね」と思うことが出来た。
満足したと言うよりも「この作者はこういうのが好きなんだから、しょうがないよね」と諦めてしまったところがあるのかも知れない。
なんだか文句ばかり書いてしまったけれど、どの作品もそれになりに面白く読ませてもらった。
全篇、タンゴにまつわる話になっていたのも面白かったし、アルゼンチンやベトナムといった異国の描写も楽しめた。
『熱帯感傷紀行』を彷彿とさせる面白さで、物語を楽しむと同時に旅の喜びを感じることが出来た。
前回『ケッヘル』でガッカリさせられたけれど、今回は少しホッっとした。
これなら次の作品を楽しみにすることが出来そうだ。
中山可穂は執筆ペースの遅い作家さんなので、次の作品を読むのはかなり先のことになるだろうけれど、これからも追いかけたいと思う。