善良なカナダ人の書いた、善良な短編小説集であった。
けっこう評判が良いようなので期待していたのだが、期待以上に素晴らしい1冊だった。
O・ヘンリの小説を、もっとハートフルにして、テーマを「家族」に絞った小説集という印象。
O・ヘンリも好きだが、たくさんある短編の中には薄ら寒いような作品もあるが『輝ける灰色の贈り物』はその辺が、ちょっと違うような気がした。
輝ける灰色の贈り物
舞台は、スコットランド高地からの移民の島カナダ、ケープ・ブレトン。
美しく苛酷な自然の中で、漁師や坑夫を生業とし、脈々と流れる“血”への思いを胸に人々は生きている。
祖父母、親、そしてこれからの道を探す子の、世代間の相克と絆、孤独、別れ、死の様を、語りつぐ物語として静かに鮮明に紡いだ、寡作の名手による最初の8篇。
アマゾンより引用
感想
この作品に登場する市井の人達は、いうなれば路傍に咲く野の花のように、派手でもなく、めったに注目されることもないが、しかし着実に一生懸命に日々を暮らしていた。
真面目で平凡に生きるだけが取り得と言うのかな。
お人よしとか、善人とか、そういう類の人達なのだ。たぶん自分の周りにもいるような、そんな人達の小さな小さなエピソードに、心を揺さぶられてしまった。
どんな人も、それぞれに複雑な想いを抱えて生きているのだなぁ……なんて。
現実社会では「正直者が馬鹿をみる」なんてことは当たり前で通ってしまいがちだ。この小説に登場するような人は、割りの合わないようなことばかり。
個人的には「いい人」であることが、必ずしも幸せだとは思えないのだが、それでも、まっとうに生きる人の姿には、うっかり感動してしまうようだ。
どの作品もそれぞれに味わいがあって良かったけれど、私が1番気に入ったのは『船』という作品だった。
漁師の父親と息子の物語だった。
息子が父を想いつつ「自分本位の夢や好きなことを追い続ける人生より、ほんとうはしたくないことをして過ごす人生のほうがはるかに勇敢だと思った」というくだりに、胸がキューッと熱くなってしまったのだ。
まったくもって、その通り。私は「何かに熱くなる人」が好きだし、そういう人を素敵だと思っている。
本当に偉い人というのは、その辺を歩いている、ただのオジチャンだったり、オバチャンだったり、オジイチャンやオバアチャンだったりするのだろうなぁ。
たぶん、みんなそのことに気がついているのだろうけれど、それを言葉で上手く表現するのは、あんがい難しいように思う。
外国が舞台の作品だが「家族」がテーマになっているだけに、どの国の人にも通じる部分があるんじゃないかなぁ……と思う。
やはり家族って言うのは、もっとも小さな社会の単位なだけに、どの家族にも軋轢や葛藤があるわけで。
なかなかなサザエさん一家のようにはいかないのが現実っものだ。
カナダの風俗や、国民性のようなもの知るだけでも楽しい作品だと思うし、懸命に働く人々の姿を味わうだけでも良いと思う。
私はアリステア・マクラウドの作品を読むのは初めてだけれど、カナダで人気のある作家さんだというのは、なんだか分かるような気がした。明けの明星のように美しい短編集だと思った。