お久しぶりの村上春樹。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』から4年も経っているとのこと。なんだか、つい最近読んだように思えてビックリしてしまう。
『1Q84』に至っては7年前とのこと。
村上春樹は新作が出るたびに速攻で図書館に予約を入れて読んでいるけれど、それほど好きかと聞かれると、実のとろこそうでもない。
ただ「この祭り参加しておきたい」と言う気持ちの方が強い感じ。
読書って趣味はどうしようもなく地味で、芥川賞や直木賞の発表の時と、村上春樹の新刊が出る時くらいしか祭りにならないのだ。
私の中ではヲタクがコミケに参加するようなノリで、村上春樹の新刊も「とりあえず読んどかなきゃ」と言う認識でいる。
今回は微妙にネタバレします。
そして村上春樹が大好きな方には申し訳ない感じの感想になるので、どちらかが苦手な方はご遠慮ください。
騎士団長殺し
騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編
騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編
私は時間を味方につけなくてはならない―
妻と別離して彷徨い、海をのぞむ小田原の小暗い森の山荘で、深い孤独の中に暮らす三十六歳の肖像画家。
やがて屋根裏のみみずくと夜中に鳴る鈴に導かれ、謎めいた出来事が次々と起こり始める。緑濃い谷の向こう側からあらわれる不思議な白髪の隣人、雑木林の祠と石室、古いレコード、そして「騎士団長」…。
物語が豊かに連環する村上文学の結晶!
アマゾンより引用
感想
とりあえず、村上春樹が好きな人は読んでおいて損はないと思う。昔の作品が好きな人は特に。
お洒落にパスタ食べて、カジュアルにセックスする世界は相変わらず健在だ。
今回は女子中学生が登場する。
「女子中学生の性的な描写はいただけない」と感じた読者も多いとは思うけれど、たぶん村上春樹はダイナマイトバディの成熟した女性よりも「女性になりきり前の若い女性」が好きなんだと思う。それって昔から変わらない気がする。
村上春樹の描く魅力的なヒロインって、今までも成熟しきっていない感じの人が多かった。
とにかく今回は、脂でギトギトした感じの村上春樹が堪能出来るので、その世界観が好きな人には是非ともオススメしたい。
それはさておき、肝心の内容について。
『騎士団長殺し』なんて言うラノベっぽい題名がついているけれど、安心してください。作品の舞台は現代日本です。
主人公は肖像画を描いて生計を立てている画家。題名になった『騎士団長殺し』とは、彼があるなりゆきから見つけた画の題名。
『世にも奇妙な物語』っぽい…と言うべきか、ファンタジーと言うべきか。
ミステリーっぽい要素が含まれてはいるものの『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』とか『1Q84』あたりのノリが平気な人なら充分楽しんで読めると思う。
たぶん巷では絶賛されると思うのだけど…確かに凄い。
複雑な物語だとも言えるし、突拍子もない話しだとも言える。新人作家さんがこのノリで作品を描いたら間違いなく世間から酷評されると思う。村上春樹だから許される世界だ。
かつて流行ったテレビドラマ『踊る大捜査線』の中で「正しい事をしたければ偉くなれ」と言う言葉があったと思うのだけど、私は若い作家さん達に言いたい。
「突拍子もない話が書きたかったら村上春樹くらい売れてください」と。
文學界も売れるが正義。この作品で描かれいる世界は村上春樹だからこそ許されるのであって、こんな好き放題に描かれた作品、他の作家さんだったら許されないんじゃないかと思う。
最後まで読んでみた訳だけど、確かに読み進めているうちは「先が気になる感」があったものの、個人的にはイマイチ好きになれないタイプの作品だった。
私は村上春樹のお洒落にパスタ食べて、カジュアルにセックスする世界が好きじゃないからだと思う。
今回の作品は前作、前々作以上にその傾向が強い。
女性視点で読むと、中学生の描写とか元妻(?)の妊娠のくだりなんかもオッサンの独特なドリームが鼻についていただけなかった。
ただ村上春樹の文学的な意味での体力には恐れ入った。
よくぞこのお歳(68歳)で、これだけの濃厚な作品が書けるものだな…と。パスタとセックスと好きな音楽と頭良さげな会話。
そこに謎を入れて、ナチスドイツ云々なんて言う要素もいれて、とにかく好きな物を全部入れました…的な作品なのに、ちゃんと風呂敷は畳めているあたり。
この力技、なかなか出来る事じゃない。
おかげさまで今回の村上春樹新作祭りも充分楽しませてもらった。次の祭りを期待したい。