『ノルウェイの森』が好きな人だったら面白く読めるのではないかと思う。
登場人物は一新されているけれど、実に『ノルウェイの森』だった。
年を経て『ノルウェイの森』を書きなおしたらこうなる……と言ってもいいんじゃないかと思うほどに。
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
多崎つくる、鉄道の駅をつくるのが仕事。名古屋での高校時代、四人の男女の親友と完璧な調和を成す関係を結んでいたが、大学時代のある日突然、四人から絶縁を申し渡された。
何の理由も告げられずに――。
死の淵を一時さ迷い、漂うように生きてきたつくるは、新しい年上の恋人・沙羅に促され、あの時なにが起きたのか探り始めるのだった。
アマゾンより引用
感想
『ノルウェイの森』と色々類似点があって、いちいちそれを挙げていてはキリが無いのだけれど、強烈に似ていると思ったのはヒロインの2人。
直子とシロ。沙羅とミドリは全く同じ役どころだと言っても過言ではない。
こんな風に書くと身も蓋も無いのだけれど「自分のタイプで好きになって、惹かれちゃうのは直子だけど、いざ結婚したり一緒に生きていくとなるとミドリがいいよね」って感じだろうか。
ヒロインがそれぞれヒロイン過ぎる。男(作者)の妄想のヒロイン。ベスト・オブ・ベスト。
「男(作者)の妄想」とか書いてしまったけれど、困った事に私も彼女達が嫌いじゃないのだ。
漫画的だし「そんな奴おらへんやろ」なキャラクターではあるのだけれど、私の中の乙女な部分が……中二病的な部分が彼女達に惹かれてしまうのだ。
出来過ぎたキャラクターって、鼻について好きになれないものだけど、作者ほど恥ずかしげもなく自分の妄想を形にしてくれると、屈服せざるを得ないのだ。
物語はちょっとした謎を解明していく形式になっているので、サクサク読めて面白い。
読みやすい文章なので取っ掛かりは良いと思う。しかし正直なところ、それほど深い話でもないし雰囲気小説と言えなくもない。
結局のところ「中二病こじらしちゃって色々大変だったけど、どっこいこれからも生きていくよ」って事だと思う。その前向きさ加減は嫌いじゃない。
それにしても村上春樹は今年で64歳とのこと。
その年で、この文章が書けるって凄いと思う。私は密かに彼のことを「永遠の中二病患者」と呼んでいたけれど、これからは「永遠の大学生」と呼ぼうと思う。
どうしてこんなに若い文章が書けるんだろうなぁ。
村上春樹は大好きな作家さんってほどではないけれど、これからも新刊が出たらその都度読んでいくと思う。