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水の中のザクロ 稲葉真弓 講談社

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物語の舞台は「健康ランド」。いっとき大ブームをおこした大型温泉娯楽施設である。

最近はやっている「スーパー銭湯」よりも、お値段はグッと高いが、サービスと施設は格段に良い。私も行ったことがあるが、けっこう好きだなぁ……と思った覚えがある。

ものすごく異様な空間なのだが、ある意味、その異様さが性に合えば心地よいのだ。

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水の中のザクロ

ああ、ゴクラク、ゴクラクやね。

湯の中でほどけてゆく心と体。ケンコウランドで出会う女たちのさまざまな生の形。

――「いろんなものを流しにくるのよ。家の小さな排水口じゃ流せないものもあるから」と1人の女は言った。

「なにを流すの?」「亭主に男」それに、と女は付け加えた。「昔のことは全部流したいねえ」それはなかなか流れてくれない、昔はしつこい、と言った。

──本文より

アマゾンより引用

感想

主人公は48歳になる独身独居の女性だった。

彼女は友人(その人も独身独居)が、失踪してしまった後「健康ランドで目撃されたらしい」と聞いたのをキッカケに「健康ランド」へ通いつめることになる。

ちょっといたたまれないような設定にドキドキしてしまった。

そして「健康ランド」という場所にいひる人々の、孤独がジワジワと忍び寄ってくる感じがとても良かった。私。稲葉真弓のファンになってしまいそうな気がする。

自分の感覚に近しいものをもった主人公だった。

こういう女性に親近感を覚える自分が誇らしくもあるが、それと同時に哀しくもある。なんだか、とても複雑な心境。

主人公には、とても好感が持ててよかった。

日々、いろいろなことを考えながら、鬱々したりもするのだが、それでもちゃんと自分の足で立って生きているようなところに、一種の清々しさを感じたのだ。

作品自体は決して清々しいものではないのだけれど。

主人公と、失踪した女の姉が、失踪した女に対して、怒りとも羨望ともつかない感情を抱いたところの描写がたまらなく良かった。

私が同じ立場だったとしても、きっと同じように感じただろうと思う。

取り残されたような、先を越されたような、そんな気になってしまうんじゃないかなぁ……

ともかく、お気に入りと呼べる作家さんが、また1人増えたようで嬉しい限り。ぼつぼつと読みすすめていこうと思う。

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