『颶風の王』は三浦綾子文学賞受賞作の長編小説。
馬とかかわる暮らしをしてきた一族の物語。明治、大正、昭和と6代に渡る馬との因縁が描かれている。
作者の河崎明子は北海道で酪農をされているとのことで、北海道の自然と馬の描写が素晴らしい。少し古風な文体で大河小説好きには全力でオススメしたい。
颶風の王 河﨑明子
力が及ばぬ厳しい自然の中で馬が、人が、懸命に生きている―。
明治の世。捨造は東北から新天地・北海道へ向かっていた。道中、捨造は童女のように生きる母からもらった紙切れを開く。それはいつもの、幼子が書いたようなものではなかった。
雪崩で馬と遭難しながらも、その馬を食べて生き延び、腹の中の捨造の命を守りきった、母の壮絶な人生の記録だった。
アマゾンより引用
感想
物語のスタート地点は意外にも北海道ではなく東北の村。
数奇な生い立ちの青年が愛馬と共に開拓民として北海道へ渡り、その青年の子孫と、その時連れて行った馬の子孫が現代まで脈々と受け継がれていく。
主人公はバトンタッチ方式で次々と変わっていくけれど、どの主人公も真面目な性格で好感が持てる。そして彼らはいつも馬と共にある。
圧倒的に面白くて一気読みしてしまった。初代の生い立ちのドラマティックさと言ったら!
主人公捨造の母は裕福な家のお嬢様だったのだけど、そこで働く馬番の若者と恋仲になり駆け落ちする。しかし追手がかかり夫はリンチで殺され、自身は馬に乗って逃げる最中に雪崩に合い、埋もれた雪の中で馬の肉を食べて命をつなぐ。
奇跡的に娘は助かり、その娘が産んだ子が初代の主人公捨造となる。捨造は母親から離されて、それこそ「捨てられて」養父母の元で育ち、開拓民として北海道へ。
2代目の主人公は捨造の孫にあたる和子と言う娘。
ここでも「これでもか!」と言う苦労が押し寄せてくる。現代に生きる私には想像も出来ないような事で「当時の人達は凄いなぁ」と感心するばかり。
北海道の厳しい自然の描写、そこに生きる人達の強さが伝わってきた。
3代目の主人公は和子の孫のひかり。時代は平成に移り、和子は畜産大学に通っている。
ここまでドラマティックだった分、3代目主人公の話はちょっと地味な印象。しかし長い長い物語の終点になっていて、題名の理由が納得出来るオチが待っている。
この作品は文句なしの面白さだった。
初代主人公の生い立ちのインパクトが強すぎて、3代目主人公の印象が薄くなってしまったのは残念だったけど、そのことを差し引いても素晴らしい作品だと思う。
三浦綾子文学賞受賞とのことだけど厳しい北海道の自然と生きた人達をテーマにした『泥流地帯』や『天北原野』を連想させるような作品で、この作品が受賞したと言うのも、なるほど納得。
私が2015年度に読んだ本の中ではベスト5に入る面白さだった。