読んだ本の『50音別作家一覧』はこちらから>>

いのちの初夜 北条民雄 角川文庫

記事内に広告が含まれています。

たぶん…だけど。『いのちの初夜』は私にとって2023年度に読んだ本の中でナンバー1の作品になると思う。今は9月で2023年はまだ終わっていないけれど、これ以上の作品に出会える気がしない…それくらい良かった。

そして驚くべきことに『いのちの初夜』は長らく絶版になっていて、角川文庫から復刊されている。こんな名著が絶版になるだなんて信じられない気持ちでいっぱいになっている。

…と言っても、私だってついこの間まで『いのちの初夜』どころか北条民雄と言う小説家がいたことさえ知らなかったのだけど。ちなみに作者の北条民雄はハンセン病患者で23歳で亡くなっている。小説を書いていた期間わずか2年ちょい。こんな作家がいたことを今まで知らなかった事が不思議でしょうがない。

スポンサーリンク

いのちの初夜

ザックリとこんな内容
  • 若くしてハンセン病を患った青年は半ば強制的に療養施設に入所させられる。
  • 自分の運命を呪い、自殺を考えた青年を絶望の淵から救い出したのは文学に対する情熱だった。
  • 施設入所初日のできごとを克明に綴った表題作の他、短編8編を収録。
  • 川端康成による「あとがき」や文学者達による解説文も読み応えあり。

感想

ハンセン病が登場する作品と言うと、感想を書いたものだと遠藤周作の『わたしが・棄てた・女』とか映画化もされたドリアン助川の『あん』などがあるし、金曜ロードショーでお馴染みのジブリアニメ『もののけ姫』にもハンセン病患者が登場する。

しかし『いのちの初夜』はそれらの作品と違って作者自身がハンセン病患者である…というところから違っている。

作者である北条民雄は小説家を志していたが19歳の時にハンセン病が発覚。療養施設から小説を投稿し、川端康成に師事。川端康成は北条民雄の才能を高く評価していて何かにつけて協力し、作品が世に出るよう尽力している。

『いのちの初夜』は日本におけるハンセン病の歴史を知る記録文学しとして素晴らしいのもさることながら「生と死に向き合う文学作品」としても素晴らしいと思う。

私は軽率にも「病気で長く苦しむくらしなら死んだ方がマシだ」みたいな事を考えてしまいがちな人間だど、北条民雄の書いた作品を読むと人間が生きようとする本能の凄まじさにひれ伏してしまう。

ハンセン病を宣告された人達の多くは自殺を考えるそうなのだけど、そのほとんどの人が「実行に移すことができない」とのこと。そして病気が進行して苦しみが募るようになっても「生きる」ことに懸命になったりする。『いのちの初夜』を読んでいる時は何度となく背筋が伸びるような気持ちになってしまった。

書かれていることはあくまでも「小説」ではあるけれど、作者が実際に見聞きしたことも多いのだろうなぁ…と推察する。

  • 自殺できない人の話
  • ハンセン病の人達は案外多趣味だ…って話
  • ハンセン病を隠して結婚した男のために家族全員罹患した一家の話
  • ハンセン病の病院内で子どもが生まれる話

……ビックリしたり、感心したり、衝撃的だったりするエピソードの連続だった。

私が特に心に響いたのは家族全員罹患した一家の話。ハンセン病を隠して結婚した夫を恨む妻。そして妻は息子にそのことを告げるのだけど、息子は当然苦悩し父を恨むようになる。ハンセン病を隠して結婚した男が1番悪い…と言えばそうなのだけど、それにしても苦しみの連鎖が止まらない展開に呆然とするしかなかった。

病院内で赤ん坊が産まれたエピソードが登場する『吹雪の歌声』はちょっと言葉では言い表すのが難しいような気持ちになってしまった。死病に侵されながら新しい命の誕生に感動する患者達の姿は切なくて「赤ん坊を抱っこさせて欲しい」と懇願する場面はグッときてしまった(抱っこさせてはもらえなかったのだけど)

どのエピソードも「酷い」「気の毒過ぎる」としか言えないことばかりなのだけど、それと同時に「それでも生きていく力強さ」を感じた。

どの物語も衝撃的だったし、北条民雄と言う作家をもっと深く知りたいと思った。全集の購入を検討するくらいには本気だ。上下巻で購入すると、そこそこお高い(文庫で1冊2200円)のでボーナスが出たら買おうかな…とか。

北条民雄の作品はザックリ読むだけなら青空文庫でも公開されているので、とりあえず青空文庫でも良いから目を通して戴きたいし、たくさんの人にオススメしたいくらいには凄い作品だった。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました