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ロスト・ケア 葉真中顕 光文社文庫

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『ロスト・ケア』は日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。私はちっとも知らなかったのだけど、松山ケンイチと長澤まさみ主演で映画化もされているらしい。

友人から「是非、読んで欲しい」と勧めてられて読んだのだけど、友人が勧めてくるだけあって、なるほど面白かった。老人介護は私が好きなテーマでもある。

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ロスト・ケア

ザックリとこんな内容
  • 戦後犯罪史に残る凶悪犯…とされた男にくだされた死刑判決がくだった。連続殺人で殺害されたのは全員介護を受けている老人。
  • 「どうして犯人は連続殺人を行ったのか? 快楽殺人なのか?」自らもクリスチャンであり、性善説を支持する大友は斯波の事件を追うのだが…

感想

老人介護をテーマにした作品には名作が多い。モブ・ノリオは『介護入門』で芥川賞を受賞しているし、久坂部羊は介護や医療をテーマにした作品を数多く執筆し続けていて『介護士K』などは『ロスト・ケア』とかなり近いテーマになっている。

介護小説だけでなく、認知症や障がい者をテーマにした作品も山ほど登場していて、比較的名作が揃っている中で、改に介護小説を投入して評価されるのは案外難しい。「これって、そこそこ面白いけど◯◯と似てるね」となりがちなのだ。

『ロスト・ケア』は既存の介護小説とは方向性が違う作品で、そこが面白かった。

久坂部羊も介護や尊厳死をテーマにした作品をワンサカ世に送り出しているけれど、彼自身が医師であるせいか「人間の倫理観」みたいところがメインになりがちにりだけど『ロスト・ケア』の場合は「社会の歪」がテーマになっていた。映画の『PLAN 75』の方向性と近いかも知れない。

介護の大変さや家族の辛さ、また「家族に迷惑をかけてまで長生きしたくない」と言うところは今までも散々書き尽くされてきたけれど「どうして、こんな状況になっているのか?」「社会のシステムに問題はないか?」ってところに突っ込んできた作品は今までなかったように思う。

地獄の沙汰も金次第…ではないけれど、介護においても格差は広がっていて「金持ち勝つ」の図式がある。豊かな老人は安心して介護を受けることが出来るものの、貧乏な老人はそうもいかない。突き詰めてしまうと「お金も無いし、世話をしてくれる身内もいないから刑務所に入りたい」なんて事になってしまう。

また家族の負担についても作品の中で取り上げられていた。福祉サービスの枠から外れてしまったりするとホント地獄。

介護のため普通の仕事ができなくなって、収入が減ったため生活保護を申請するも「働けるんでしょ?頑張ってくださね」と追い返されてしまう場面などは絶望してしまう。(実のところ、これについては役所の職員が無能過ぎるのであって、本来なら連携して別の福祉サービスに繋げるべきではある)

今回はネタバレを避けたいので物語の流れや犯人等については書く事は避けるけれど、推理小説としてのレベルは決して高くない。早い段階で「なるほど。この人が犯人で殺す理由はこんな感じだろうな」ってところまで分かってしまう。

だけど社会派小説としては良く出来ているし、何より展開が早いのでサクサク進んでいく。サクサク読みながらも提起された問題について深く考えさせられた。そして、それらの問題は富裕層でも無ければ他人事ではないのだ。

『ロスト・ケア』はイッキ読みしてしまう面白さで満足度がたかかった。小説が良かったので是非、映画も観てみたいと思う。

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