実際に読んだのは、ずっと前のことだし私が持っているのはハード・カバー版だけど、今回はお手軽に、文庫版をご紹介ってことで。
『恋文』は恋愛小説が得意でない私が今まで読んできた中で、いっとう愛している「とっておき」の恋愛小説。
これほど切なくて酷い恋愛小説はめったにない。
恋文
マニキュアで描いた花吹雪を窓ガラスに残し、部屋を出ていった歳下の夫。それをきっかけに、しっかり者の妻に、初めて心を許せる女友達が出来たが(「恋文」)。
二十一の若さで死んだ、姉の娘。幼い子供を抱いた五枚の写真に遺された、姪から叔父へのメッセージとは(「私の叔父さん」)。
都会の片隅に暮す、大人の男女の様々な“愛のかたち”を描く五篇。直木賞受賞。
アマゾンより引用
感想
『恋文』のあらすじを物語を簡単に説明するとこんな感じ。
- …中年の共働き夫婦(小学生の子供アリ)がいる。
- ある日、突然、夫は別の女性が好きになり、出奔。
- しっかり者で強気の妻は、最初は夫を怒って責める。
- しかし妻は夫の恋人が、不治の病にかかっていることを知る。
- 妻は夫のことを愛してるんだけど「行ってもいいよ」と夫を送り出す。
まったくもって、コテコテの展開だ。
しかも、この恋愛小説はハーレクイン・ロマンスのように美しいシュチュエーションは1つもなくて渡辺淳一や、立原正秋の書く小説のように甘美な色は1つもない。「恋」という言葉が似合いそうにもない、冴えない男女が恋に突撃していく話だ。
「恋」の似合わない人の恋ほど、切ないものはないってね。
あまりにも、みんなが「いい人」過ぎるので、ある意味「大人のメルヘン」だとも言えるし、それなのに、妙に生々しいところが、チラチラ見え隠れするあたりは「立派な小説」だとも言える。
要するに。理屈抜きで……想い合う気持ちが、すれ違ってゆくのは切ないのぅ……って感じ。
素敵な夜景だの、お洒落なレストランだの、紅葉だの、ワインだのといった「恋愛盛り上げグッズ」がなくたって、恋は出来る。
そして、手が届きそうな恋愛は案外グッときちゃったりする。恋は美男・美女だけのものではない……ってことだと思う。素敵でなくたって、好きになれば関係ないって、このことさね。そんな風に納得しちゃう1冊。
ちなみに、朝倉かすみ『平場の月』も『恋文』と同じ路線なので『恋文』が好きな人にはおすすめしたい。
何度となく映像化されている作品だがヒロインは「大竹しのぶ」よりも、断然「泉ピンコ」だと私は思う。
ふかしたジャガイモみたいな、不器用な恋のお話。
たまには、こんな本もイイんじゃない? みたいな。「恋愛小説」の感想ってのは照れくさくって、いけません。