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善医の罪 久坂部羊 文藝春秋

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『善医の罪』は尊厳死を巡る裁判について書かれた物語。久坂部羊はサクサク読める軽いコメディタッチ路線と、『廃用身』や『老乱』のような重苦しいテーマを扱った路線があるけれど、今回は重苦しい路線。

『善医の罪』は、面白かったけど、ある意味ムナクソ小説と言っても良いかも知れない。「面白くなくてムナクソ悪かった」って意味ではなくて、ムナクソ悪くなるキャラが多数登場するって意味で。

廃用身』や『老乱』とは少し雰囲気が違うのだけど、大切にしている部分は同じなので、久坂部羊を追ってきた人なら面白く読めると思う。

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善医の罪

ザックリとこんな内容
  • 尊厳死を巡る裁判がテーマ。
  • クモ膜下出血で意識不明の重体で運ばれてきた横川達男の主治医の白石ルネは、これ以上の延命治療は難しいと判断。
  • 生前、本人の意志を聞いていてた白石ルネは治療を中止することを決意する。
  • 横川の苦しむ様子に耐えられなくなった家族は同意し、白石は横川を尊厳死に導いた。
  • 数年後、白石が記したカルテと、立ち会った看護師のメモが食い違っていることが告発される。やがてマスコミがかぎつけることになり、裁判に発展する。
  • コンプレックスを抱える麻酔科医、保身にはしる先輩外科医、女性として白石ルネに劣等感を感じる看護師等、様々な立場の人間が事実をねじ曲げていく…

感想

主治医の白石ルネは久坂部羊作品の主人公にありがちな医療に対して真面目な人物。しかも性格も真面目で美人ときている。

『善医の罪』は尊厳死を扱った作品…ってことで、テーマからして重いのだけど「人間関係を楽しむ作品」としてもよく出来ていると思った。

久坂部羊は安楽死や尊厳死、医療の限界についてずっと書き続けてきた人なのでテーマ自体は目新しいくないのだけれど、今回は主人公の白石ルネの追い詰められ方が面白かった。

「良かれ」と思って取った行動が内部告発と陰謀によって裁判にまで発展していくのだけど、白石ルネを憎む人達が下衆過ぎて面白かった。

  • 美人を憎む看護師
  • 自分より上をいく白石ルネを憎む麻酔科医

白石ルネ側に立って読むと可哀想な展開なのだけど、実のところ白石ルネにもまったく否がない…とは言い難い。

白石ルネは真面目で正しい人だけど「組織の中で働く」と言う意味において能力が低過ぎたのだと思う。もちろん、どんなに気を配ったところで嫌う人は出てきただろうけれど、白石ルネの行動は「周囲に気を使うことが出来る人」のそれではなかった。

それにしても、だからってあの展開は酷過ぎたし悪人登場人物はデフォルトが過ぎたかな…と思うものの、強烈な悪人キャラはドラマ化、映画化に向いていると思う。「もしかすると、ドラマ化や映画化を想定して書かれた小説なのかな?」と勘ぐってみたり。

ラストは課題を残すような形になっていて、モヤモヤするところだけど、テーマがテーマなだけに気持ちの良いラストには出来ないのだと思う。「この機会に人生の終わり方について考えてみてください」ってメッセージなのだろう。

「最高に面白かった」とまでは言わないし、久坂部羊の他の作品と較べると「まぁ。こんなもんか」感はあるものの、充分に読み応えのある作品だった。

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