前回読んだ『ランチ酒 おかわり日和』に続く食べ物小説。連作短篇形式で、どの作品にも食べ物が登場する。
食べ物小説と言っても『ランチ酒 おかわり日和』のように「美味しそうで楽しいなぁ」ってタイプの作品ではなくて、食べ物はあくまでも添え物になっていて、地味に嫌な感じのする大きな物語りがベースになっている。
美味しそうな食べ物を登場させることで印象が柔らかくなっているけれど、普通に読むとけっこう嫌な感じの話だと思う。
まずはこれ食べて
- とあるベンチャー企業で働く人達の人間模様を描いた連作短編集。
- 不規則な生活のせいで食事はおろそかで、散らかり放題の殺伐とした雰囲気を改善しようと、社長の提案で会社に家政婦を雇うことになる。
- 家政婦の筧みのりは、無愛想だが完璧な家事を行い、いつも心がほっとする料理を振る舞う。
- 1話進むごとに会社で働く社員達が抱えている悩みや心の闇、そして筧みのり自身の秘密が明らになっていく。
感想
もしかして『まずはこれ食べて』は実験的な意味合いで書かれた作品なのだろうか?
「食べ物小説」と言うには嫌な感じに仕上がっていて、ハートフル系ではなくてイヤミス(読後に嫌な感じるのするミステリー小説)のノリに近い気がする。
食べ物小説、グルメ小説と思って読み始めるとビックリすると思う。
食べ物の描写については美味しそうで良いと思う。山口恵以子の『食堂のおばちゃん』シリーズに通じるところがあるかも知れない。
特別に美味しそうな料理…って訳じゃなくて、オカンの手料理的な毎日食べても飽きな系。
実のところ私自身は家政婦、筧みのり側の人間なので読んでいてもイマイチ惹かれなかった。だって毎日作ってるし、食べてるもの。筧みのりの作りそうな料理って。
料理の話はさておき。物語の大筋はけっこう面白かった。
この物語はベンチャー企業を立ち上げた柿枝と言う男が重要な役割を担っているのだけど、この男は清々しいほどのクズなのだ。だけど「あ。このタイプ人間、知ってる」と心当たりのある人はいると思う。
柿枝のクズっぷりはリアルで上手いと思った。
そこそこ面白かったのだけど、話としては未完成感があって、スッキリしない感じ。一応、決着をつけた形になってるいもののイマイチ納得出来なかった。だけど、その「納得出来ない」ってとろを狙って書いたのだろうな…とは思う。
「筧みのりシリーズ」として2冊目が出ても不思議じゃない感じの終わり方。
今までにない雰囲気の作品だけど、個人的にはあまり好きじゃない。イヤミス方向に持っていくならもう少し吹っ切って欲しかった。このままの路線を続けるのならウンザリだけど、とりあえず次の作品に期待したい。