『トリニティ』で直木賞の候補に挙がるも、受賞出来なかった窪美澄。
直木賞を受賞出来なかったのは残念でならないけど、今回読んだ『いるいないみらい』は『トリニティ』以上の名作だ思う。
『いるいないみらい』は直木賞系…と言えばそうなのかも知れないけれど、個人的には「芥川賞でもいいんじゃない?」って感じの、人間の内面を描いた作品だった。
今回、軽くネタバレが入るのでネタバレNGの方はご遠慮ください。
いるいないみらい
あらすじ
「子ども」をテーマにした短編集。それぞれの短編は少しずつリンクしている部分がある。
- 『1DKとメロンパン』子どものいない共働き夫婦の葛藤。夫は子どもが欲しい。妻は子どもを望まない…
- 『無花果のレジデンス』こちらも子どものいない共働き夫婦が主人公。妊活中で不妊の原因は夫。夫視点で語られる。
- 『私は子どもが大嫌い』自分は子どもが嫌いだと自覚している独身OLが主人公。子どもが嫌いと言いながら、何故かマンションで知り合った幼い子の世話をすることに…
- 『ほおずきを鳴らす』幼くして我が子を病気で亡くした中年男性が主人公。子どもの死をキッカケに離婚し、長く1人で暮らしてきたが…
- 『金木犀のベランダ』子羊堂と言うパン屋を営む夫婦の物語。妻の繭子は親を知らず養護施設で育っている。夫から「そろそろ子どもが欲しい」と言われるのだが、親になる自信が持てない。そして…
感想
本の帯等のキャッチが「妊活、少し休もうか?」だったので、妊活に取り組む夫婦がテーマの短編集かと思いきや「子ども」とか「家族」とか言う、もっと大きなくくりをテーマにした短編集だった。
不妊とか、子どもをテーマにした作品って、小説にしても映画にしても「産みたいと言う女の本能」とか「不妊治療辛い」とか「周囲からのプレッシャー辛い」みたいなところがテーマになりがちにのだけど、窪美澄はそこから視点をズラしてきたのが上手いと思った。
「子どもは夫婦の間に産まれるもので、基本は夫婦でしょ?」みたいなところが作品のテーマになっている。
そして夫婦はそのまま「家族」と言う言葉にも変換出来る。
特に短編集の最後に収録されている『金木犀のベランダ』の主人公は養護施設育ちで「家族」に対して、憧れと戸惑いを抱いている。
軽くネタバレするけれど『金木犀のベランダ』では「養子」と言う選択肢が提示されている。
「子どもを産む・産まない・産めない」と言った狭いところだけでなく「家族」まで考えを広げてきたのは、ちょっと新しい気がした。
新しい…と言えば『私は子どもが大嫌い』もなかなか面白かった。
主人公は子どもが嫌いな独身女性。単身者専用のマンションに住んでいるのに、何故か子どもの声。育児放棄れている子どもを放っておけなくて…みたいななのだけど、ここで描かれているのは「子どもを産んだ女は偉い」とか「独身女性は負け犬」みたいな価値観ではない。
みんな根っこの部分では分かっていることなのだと思うけど「クズな親って以外と多いし、子どもを持たない人が駄目人間って訳じゃないよね」って事を分かりやすく描いている。
『いるいないみらい』に収録されている作品はそれぞれ少しずつ切り口が違っているけれど、しっかり軸が通っていて読み応えがあった。
窪美澄…凄いな。前作よりも断然面白い。
文句なしで面白かったし、次の作品も絶対読もうと思う。