滝口悠生、芥川賞受賞後、第一作とのこと。
滝口悠生の作品は1冊だけ読んでいるけれど、受賞作は読んでいない。ちなみ以前に読んだ『愛と人生』はイマイチ楽しめなかった。
「もしかしたら芥川賞受賞作は面白かったのもか知れないし、芥川賞受賞以降はまた作風が変わっているかも」と手に取ったものの、やはり私には楽しむ事が出来なかった。
茄子の輝き
離婚と大地震。倒産と転職。そんなできごとも、無数の愛おしい場面とつながっている。旅先
の妻の表情。震災後の不安な日々。職場の千絵ちゃんの愛らしさ―。次第に輪郭を失いながら、なお熱を発し続ける一つ一つの記憶の、かけがえのない輝き。
覚えていることと忘れてしまったことをめぐる6篇の連作に、ある秋の休日の街と人々を鮮やかに切りとる「文化」を併録。
アマゾンより引用
感想
どうやら滝口悠生は私と相性の悪い作家さんなのだと思う。とは言うものの「私には合わない」ってだけで、好きな人はものすごくハマりそうだな…とは薄々感じた。
この作品は主人公の男性が離婚した妻のことを思い出したり、離婚後に職場でちょっと好きだった女の子のことをウダウダ考えたりする話が連作短編の形でまとめたもの。
「男の恋は別名で保存。女の恋は上書き保存」と言う言葉があるけれど、まさに「別名で保存」の見本のような話になっている。
上書き保存派の私としては「もう! 付き合ってらんない」と思ってしまう訳なのだけど、別名で保存派の方なら楽しめるのではないかと思う。
個人的には全く楽しめなかったのだけど、色々と「上手いなぁ」と思うところは多々あった。
例えば中小企業の息苦い空気とか、会社が潰れる時の嫌な感じなんか実にリアルに描かれている。
私は実父が自分の会社を2回も潰しているし、夫は勤めていた会社が民事再生になってるしで「会社が潰れると気の空気」を知らないではないだけに「あぁ…そうそう。そんな感じですよね」と共感する部分が多かった。
この辺の描写は滝口悠生自身の経験なのか、取材と想像による完全創作なのかは分からないけれど、やたらとリアリティが感じられた。
あと、主人公が1人で餃子を食べてビールを飲んだりする描写はいいな…と思った。
独身男性の気楽さが羨ましいと思ってしまうほど。寂しいかも知れないけれど、あの気楽な感じは本気で羨ましい。
私も1人で中華屋に入って餃子でビールが飲みたいけれど、家族がいるとなかなか「1人で」ってのが難しい。
あれは独身かつ独り暮らしの人にのみ許された特権なんだろうなぁ。
私には楽しめなかったけれど、需要ありそうな作風だな…と思った。