図書館で表紙と題名に惹かれて手にとってみた。「そう言えば芥川賞を取った作家さんだっけ?」と読んでみたのだけど、私が予想した内容と全く違った話で困惑してしまった。
落語をしているような雰囲気の表紙だったので「落語家の話かな?」と思ったのだけど、落語とは全く関係が無くて(実は表題作じゃない作品で落語が登場する)、表題作は映画『男はつらいよ』をモチーフに書かれたものだった。
『男はつらいよ』が好きな人なら楽しめると思うのだけど、そうでない人には厳しい作品だった。
愛と人生
「男はつらいよ」シリーズの子役、秀吉だった「私」は、寅次郎と一緒に行方不明になった母を探す旅に出る。映画の登場人物と、それを演じる俳優の人生が渾然一体となって語られ、斬新で独創的と絶賛された“寅さん小説”の表題作ほか、短編「かまち」とその続編「泥棒」の三作を収録。野間文芸新人賞受賞作。
アマゾンより引用
感想
表題作は『男はつらいよ』に登場する子役の『秀吉』が主人公。
現実と映画の内容が行ったり来たりしていて『男はつらいよ』の話をなぞるのかな……と思いきや、渥美清だの美保純だのはそのままの名前で登場したりする。
白昼夢をみているような物語で面白くないかと言うとそうでもないのだけれど『男はつらいよ』を知らないのと、役名ではなく役者名が出てくるのとでお話にのめり込む事が出来なかった。
滝口悠生は美保純が好きなのだろうか? せめて役名だったら入り込めたかも知れけ無いのだけど「美保純」と書かれてしまうと、美保純の気だるい表情しか浮かばなくて、物語に集中出来なかった。
私にはイマイチだったのだけど、たぶん『男はつらいよ』のシリーズとか、寅さんが好きな人なら楽しめるのではないかと思う。
『男はつらいよ』をよく知らないのも敗因だったけれど、それ以上に私自身は「美保純」って女優さんがあまり好きじゃないのでハマれなかったのだと思う。もしかしたら男性向けの作品なのかもな……なんて事を思ったりした。
併録されている『かまち』と『泥棒』はそれなりに面白く読む事が出来た。
しかし残念ながらこちらも「それなりに」程度しか理解出来ず。
何しろ『かまち』の「山田かまち」と言う人を私は全く知らないのだ。山田かまちに思い入れのある人ならまだしも、そうでなければ理解出来ない部分が多いと思う。
『愛と人生』にしても『かまち』にしても、実在の人物ありきの物型なので、それらの人を知らないとイマイチ楽しめないと言うのは小説としてはどうかと思う。
実在の人物を出すのが駄目だと言う訳ではない。作品を読んでみて「この人、名前しか知らないんだけど、ちょっと調べてみようかな」と思えるほどモチーフが魅力的なら問題ない。
だけど、この作品の場合はどうもそうとは思えなかった。
なんだか文句ばかり書いてしまったけれど、滝口悠生はこの数作後に芥川賞を受賞している。
作風が変わったのか、それこもこの作品だけが特殊なのか。また気が向いたら芥川賞受賞作を読んでみようと思う。