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高架線 滝口悠生 講談社

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作者の作品を読むのはこれで3冊目だけど、滝口悠生の作風は言って好きじゃない。

それなのに、この作品に限っては「案外いいじゃない」と思ってしまった。

初めて読んだ『愛と人生』も、芥川賞を受賞した『茄子の輝き』も「悪くはないけど楽しめないなぁ」って感じだった。でも、今回は楽しめてしまった。

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高架線

風呂トイレつき、駅から徒歩5分で家賃3万円。古アパート「かたばみ荘」では、出るときに次の入居者を自分で探してくることになっていた。部屋を引き継いだ住人がある日失踪して……。人々の記憶と語りで綴られていく16年間の物語。

アマゾンより引用

感想

東京にあるとあるアパートが舞台の物語。

かたばみ荘と言う名のアパートは家賃3万円。ただし不動産仲介業者を通さず退去する時は住人が次の住人を連れてくる…と言う謎システム。

かたばみ荘で暮らした住人達が物語を繋いでいく方式になっていて、一応長編小説として売り出しているものの連作短編集に近い形式になっている。

歯に衣を着せずに言うならば、どうでも良いような話はかりだった。

だが、それがいい。むしろ、そこがいい。共感できるエピソードとそうでないエピソードは人によって違うと思うのだけど、話によって面白さ度合いが全く違う。

自分は面白いと思っても別の人にとっては、どうでも良い話だったり、逆に自分は全く面白いと感じなくても人によってはストライクだったりするかも知れない。

私はいくつかの話で笑ったものの、退屈な話があったのも事実だ。

何冊か読んで感じたのは「滝口悠生は読者を選ぶ人なんだな」ってこと。

例えば今回の作品だと風間杜夫と平田満が出演した『蒲田行進曲』についての解説が延々あったりするのだけれど『蒲田行進曲』を観たことがある人なら面白く読めてもそうでない人にはちょっと厳しい。

主要な登場人物も普通の会社員なんかじゃなくて「バンドやっててフラフラしている若者」だったりして、青春小説と言ってしまえばそれまでだけど、描かれいる世界が特殊なだけに演劇とか映画とか音楽が好きな人なら良いけれど、興味のない人には楽しめないかも知れない。

私自身は今回のようなくだらない話は嫌いじゃない。読んだところで為にならない話ばかりだけど「若いっていいなぁ」みたいな感じとか、馬鹿だけど憎めない人達とか。

ただ、これって他人事として読んでいので面白がっていられるけれど、面白がって読めない人だと「こういう若者がいずれ生活保護とか言い出すんだよなぁ」ってなると思う。

行き当たりばったりな生き方が面白いと思えるのは小説の中だからであって、現実世界はそうじゃないもの。

個人的には面白かったけれど、あえて文句を言うなら、連作短編形式にしてはメリハリが無いし作者の引き出しの少なさが目についてしまった感がある。

主役が次々交代していくシステムなのに、どの人物もなんとなく似ていて飽きてくるのだ。

「友達だから」と言ってしまえばそれまでだけど、どうせなら全く違うタイプを混ぜてみても良かったかも。

この作品に限ったことではないけれど、作者の描く登場人物の生きる世界は毎度偏っていて大衆小説としては弱いと思う。

「業界向け」と言うのかな。こういう世界か好きな人はハマる作品だと思う。

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